連載概要
「流星之軌跡」概要(2010.9.14加筆修正)
人の生というものは、何時何時(いつなんとき)一転するか分からないものだ。
中には人の生など平凡極まりないものだという人もいるだろう。
しかし、平凡とは幸福の証であるともいえよう。
その者は、前世に良い行いをし、そのかけがえの無いものを手に入れているのだから。
ウパニシャッド哲学によれば、そのように前世において良い行いをしたものにはそれなりの、
悪い行いをしたものにはそれなりの「業(カルマ)」を背負うという。
それは魂が循環する中での、必然であり偶然の運命であり、逃れることはできない。
意識しようがしまいが、それは着実に、そして冷酷に、そして暖かく迫ってくる。
人が魂の一部であるかぎり、逃れられない、魂の苦しみなのだ。
この死後の世界においても、魂は一様の扱いをうける。
たとえそれが無知からきた、反逆であろうと。
ただ、存在証明をするための命の叫びであったとしても。
業は業を結びつけ、ただ無情にその鋭い刃をかざすのだ。
その名は報い。
報いは慈悲か、はたまた怨嗟の断罪か。
それを決めることすら、業のうちであるというのに。
魂は、もがく。
ここに、その「業」そのものを知らない少女がいた。
名前は「」。
彼女は死後の世界、尸魂界の特別密偵だった。
彼女には過去の記憶がない。
気付けばその死後の世界の番人である浮竹十四郎と、山本元柳斎重國に囲まれて生活していた。
彼女には、特殊な能力があった。
それは、他人の考えている心の声が聞こえるというものだった。
自分によくしてくれる浮竹に問えば、その能力は未知なものであるが故に戦争孤児だったを見捨てることはできず、
霊圧を封じる牢屋の中で生活してもらっているという。
しかし彼女はその力の源となっている刀の名を知らない。
本来なら知っていなければ解放できないその力。
何故それなのに解放出来ているのか、彼女は不思議で仕方なかった。
しかし、それをまた浮竹に聞けば、おそらく記憶を失う、戦争孤児時代に名を知り、解放したのだろう、とのことだった。
特にだからといって苦労することもない。
苦労することといえば唯一―――刀を元に、解放前の形に戻すことを知らないことくらいだった。
やがては浮竹や山本に暖かく育てられてきて、ある決心をする。
本来自分は死ぬべきだった戦争孤児。自分をここまで優しく育ててきてくれた浮竹や山本、そしてひいては彼らが
率いる護廷十三隊の役に立つため、死神になろう、という決心だった。
元々彼女には霊力があったため、それも不可能ではないだろうと彼女は思ったのだ。
そして、自分の能力を活かすべきは密偵だろう、と。
そして、彼女は血に滲む努力の末、ほどなくして護廷十三隊を探る、内部密偵になる。
全ては恩に報いるため。
親といっても過言ではない二人に恩返しをするため―――。
彼女はついに、十三隊に潜入を開始した。
――――業は業を結びつけ、ただ無情にその鋭い刃をかざす。
彼女は願っていたのかもしれない。
「綺麗な世界である“筈”」と。
しかし現実は――業は、彼女に甘さを突きつける。
見聞きした世界が、美しいとは限らないのだから。
「藍染惣右介は大罪人なんです、だから、どうか―――」
そして理性と本能。
生と死と、
恐怖と愛情と。
彼女の綺麗な、全ての倫理や道徳が破壊される。
「大方、浮竹は教えてくれなかったのだろう?
お前が、どうして孤児になったのかを―――お前の、過去を―――」
彼女は大罪人、藍染惣右介に捕縛されてしまう。
そして彼による「完全絶対愛情教育」によって、彼女の浮竹に染まった世界は崩壊してゆく。
美しいか、それとも醜いか。その判断材料さえ、愛情によって破壊されてゆく。
それは最早愛情というよりも、恐怖――。
いつしか、は浮竹を恐れていた。
「私の実験は成功していたんだ」
枠組みは、粉砕され。
「浮竹は精神的にを縛った───それが、浮竹なりの愛情だったんだよ。
だとしたら、何と酷い愛情だと思わないか?」
彼女の瞳には、いつしか。
「ご・・・めん・・・・なさい・・」
敵味方関係なく、血塗られた世界が、広がっていた。
「生かそうと思えば生かせた命。お前は生かしたかった。
しかし殺さなければ、自分が死んでいたのだ。仕方なかったんだ」
それが、彼女の、業。
いや―――。
「・・・・・・。・・・名は・・・・?まさか・・・・・・・・?」
彼女と、藍染。
そして――――
「はっ、知らぬか・・・!やはり貴様は何時まで経とうと、私を理解することなど到底出来ぬわ!」
「―――?」
浮竹の、業。
満月の夜。
出会ってはならない魂と魂が、出会ってしまったのだ。
「私は・・・な、夏。夏、で、でぇーす・・」
「夏・・・?じゃあ、夏様、ですか」
「だ、だから様はいらぬと言っておろ・・・、あっ!」
「はぁ・・・。いいですか、夏様。くれぐれもここから外へは出ないで下さいよ。
・・・貴方の存在が今世間にばれたら大事件になる。まさに今にでも完成しそうな研究の邪魔になるんですよ」
それは究極的に愛情に飢えた魂と、野望に生きる魂の邂逅をきっかけに。
「・・光れば、生きている証になろう」
「夏・・・」
「ふふ、今更その名で呼ばないでよ」
「・・・・、様」
「様もつけるな」
「・・・さん」
「さんも・・・つけるな・・・。この分からず屋―――最後まで・・・。・・・寂しいでしょう」
「」
「惣右介。無事でいて」
憎しみ続けた存在は、いつしか底知れぬ恋慕へと摩り替わる。
希薄に生きる存在は、万象の境界を溶かす存在。大罪人は無知が故に、忘却してはならないものを
忘れてしまう。
踏み荒らされた花の色を知った時、野望に燃える男は何を思うのか。
「あの女―――夏という名の女は・・・君の心をも騙していたのか。 ・・許せん」
「――――――・・・ええ」
業は、深く。抉る様に、回りだす。
命の証明。
漆黒の中に輝く一筋の、光。
その轍に、業を見る―――。
「貴方に、返さねばならないものがあるのです。
さあ、記憶を、消して。『』を―――消して。『』―――」
―――万象は平衡の最果てへ。
―――そして君は、優しい淘汰に願いを叶える。
流星之軌跡、徒然連載中。
日春 琴