第十一話「刹那」
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「自分でもわかっているんだ……。死んだ魂は戻らない。
彼女──涼子(りょうこ)が、この世に戻らないことなんて」
涼子───。
先ほど苦しみ、に爪を立ててきた時に口にした名前だ。そ
の名前を呼ぶ速水の表情から、何か大切な人なんだな、と予想がつく。
「その涼子さん、という方は、もしかして……もう………」
沈痛な面持ちでが呟くと、いくらか暗い面持ちで彼はこくりと頷いた。
「まだ若かったのにな。僕が二十八で、彼女が二十三。そう、丁度君より少し年上なくらいだね」
「その涼子さんが、何故……。何か、重い病気でも?」
「いや……。彼女は虚に殺されたんだ」
「虚に……」
速水は昼下がりの窓辺を見ながら辛そうに、しかしどこか淡々と、話しを続ける。
その様子には、もうその傷はいくらばかりかは癒えていることを悟った。
恐らく彼は彼女の死を、大半は受諾しているのだろう。
「僕には未だに理解出来ない。いや、彼女が死んでから尚更そうなったと言っても過言じゃないんだけどね。
……とにかく、どうしても理解出来ないんだ。何かと戦うことは」
「…………」
「たとえそれが虚であっても、好んで戦いに出向くなんてことが……。……死に急ぐ様なものじゃないか」
確かに、何かと戦うことは破壊と犠牲を生む。
も同様に、それが何よりも嫌いだった。
戦いからは、何も生まれない。
生まれるのは、創造が出来る魂独自の感情による憎悪の鎖と、殺戮と悲しみ───。
確かに現世では戦から文明は発展したが、開発した科学者の大半はそれに後悔をしてきた。
やはり、そうやって憎しみは限りない殺戮を生む、と。
しかし回り出した車輪は止まらない。
先人の轍を踏んだ魂は、また再び違えた未来を望んで愚行を繰り返し、後悔するのだ。
だから、それを止めるために自分は特別な力を授かったのだ───
そう思って、今までは浮竹達に力を貸して来たのだ。
しかし結局その力は神からのものではなく、むしろ悪魔から与えられた、
禁じられた力だったのだけれど。
自分の力は今、その悪魔に利用されて破壊を生んでいる。
目に見える戦争でなくとも、誰かを殺す戦は確かに起きていたのだ。
────先ほど、自分が速水を殺そうとしたように……。
「彼女……涼子は、僕の妻だった。これは結婚する前から気になっていたことなんだけど…
彼女はあの十一番隊に所属していたんだ」
十一番隊といえば───まだその隊の潜入捜査の任務を受けてはいなかったが、
以前頭に叩き込んだ組織相関図を思い出せばそこは、何よりも戦闘を好む戦闘集団だと記憶している。
そこに涼子、速水の妻は属していたのか。
「勿論、彼女にその件は言ったよ。『君が心配だから、異動、もしくはせめて前線から引いてくれ』と。
でも彼女はやめなかった。むしろ……結婚してから、尚更戦闘の第一線に出て行くようになったんだ」
「………」
「僕も止めようとしたけど……虚退治から帰ってくる彼女の顔は、
何よりも生き生きとしていて……止められなかった……」
だから、彼女が虚に襲われて、無残な姿になって帰って来た時、自分を何度も責めたと彼は続けた。
視線はまだ窓の外を見つめて、口許には諦めたかのような笑みを浮かべて。
「性格は全く違いそうだけどね。……君に、涼子が似ていたんだと思う。
昨日初めて君と会った時、ふと彼女の面影を感じたんだ」
「それで、さっきも……」
「ああ、そうだ。……すまない」
目の前で頭を下げる速水に、は、
「いいえ。そんなことは気にしてませんから……どうか、顔を上げて下さい」
と言って、顔を上げさせる。
当然だろう。
こちらこそ──もっと酷い事をしようとしたのだから。
「……すまないね。こんなつまらない話しちゃって。忘れてくれ」
「いえ、そんな……」
の痛んだ顔を見た速水が心配してきた。
しかし、は否定して笑う。まるで、過ちを振り切るかの様に。
と、そんな時、あまりにも暗い雰囲気になってしまったことを後悔したのか、速水が謄本の話を持ち出して来た。
彼の声は少し明るくなっていた。
「昨日あれからちゃんと資料を探して僕の私室にまとめておいたんだけど、急に夜中に要請がかかっちゃってね。
そのままだから、まだ未完成だ……この怪我が治ったら、すぐに集めて渡すから」
「はい。有り難う御座います。あっ、でも……無理はしないで下さいね?」
「いや、でも早くしないと五番隊にも迷惑が掛かるから……」
「……いいんですっ。私から藍染隊長には何とか言っておきますから。
速水さんはご自分の怪我の治療に専念して下さい」
「さん……。………ふふ、ありがとう」
「いいえ」
咄嗟に出たその暖かい言葉は、藍染の命令を遂行しようという今迄の冷たいの心からきたものなのか、
それとも忘れかけた本来の優しい真心からきたものなのか────。
わかる者は、自身でもなく、また他の誰でもなかった。
続
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速水君目覚めるw
うーん・・・非常に本誌との時間軸のずれが怖いのですが・・^^;
あ、涼子さんはに似てるという設定です。
仕事(虚退治)でたびたび四番隊速水の世話になっていた涼子はそのまま彼と親密になり結婚。
そのまま速水は尻を敷かれる立場になりましたが、本人は何よりも平和と笑いを好んだのでそれをとやかくも言わず、
また、涼子もそんな速水に尊敬の念を抱いていました。
しかし、とある仕事中に不意に背後から虚に襲われて死亡。身体は完全に食われて、頭だけが遺体として夫である速水の
元に帰ってきます。
そこで死んだように眠る涼子を見つめながら、任務に生き、そして死んでいった彼女を褒め称えもしたが、やはり残るのは
自責の念。不甲斐なさ――
それから元々温和だった速水も、好んで虚や敵と戦う同胞たちを哀れみの瞳で見るようになります。
も、浮竹の元で温和に育ち、速水の気持ちが良く分かります。
この世界の皆が疑いを持つことなく、潔白なままで仲良く生きられたら――そう思って、は今まで協力してきました。
が・・・まぁ、結局今、藍染によってそれは正反対の方向へ向いているわけですがw
こんな過去があったりします。はい。
まだまだこれから速水君とか色々な人出したいんですけど――・・・何せマンネリ化が怖いwので、これも早めに終わらせたいと
思います。
では。