第十五話「枷鎖と船」



何よりも眩しい、朝。





罪深い、朝。





【流星之軌跡:第十五話「枷鎖と船」】




夏の夜──夕涼みというには遅過ぎる刻限に、は歩いていた。


藍染に速水殺害の命を受けてからというもの、一応頭では理解出来ても具体性を欠いていたのだ。
速水は藍染の計画に邪魔な人物で、好意を───自分に───好意をあれほどまでに抱いてしまっている彼は最早、
手を下さなければ取り返しのつかない程の悪夢や苦しみが待っているだろう。
しかし頭の何処かでは───生かしたい、と思うのも確かだった。
だから、処す、その情景が浮かばない。


「・・・・」


何が何だかわからなくなってしまった。
すると、繰り返し、繰り返し、は自分の心に問い、整理をし始めた。


殺さなければならないのは道理。
けれど───日に日に元気になってゆく、絶望から立ち直る彼の姿を見てしまった今───殺したくない。



そうだ。



いっそ、自分への気持ちを捨てなければ殺すと脅しをかけるか願うかして、謄本を差し出し、
自分を一切諦めて新たな人生を歩んでくれれば。
仮にでも一度惚れた者の言葉くらい信じてくれるだろう。



しかし───。



藍染が、それを赦してくれるだろうか?



『謄本が早急に必要になった』


だから速水を殺せと、藍染は言った。



しかし─────その言動を受けた、今まで行動を共にして、常に彼の考えや心を読んできた
彼女にはある確信とも呼べる推測があった。



口ではそう言えど────おそらくは、違う。



その目的が何なのか。
それはわからないが、だが、唯殺すだけには急な理由だと思えて仕方ないのだ。


そう、敢えて言えば──『藍染惣右介』らしくないのだ。
そうなることすら、彼は考えに入れている筈なのだから。


「・・・・」


なら、どうすれば良い?


一度は速水を拒絶したものの、それは唯己の恐怖に負けて幻想に溺れただけで、
彼にを困らせてやろう、などという悪意は微塵もなかったのだ。



生かしたい。



だが、殺さなければ。




その二点の間で、は揺れていた。



どうすれば。



どうすれば、『殺す』か『生かす』を選ばないで済む─────?





目をギュッと瞑って、息を大きく吐きながらは天を見上げた。


───天なら・・・。
この広く、無限を孕む天なら、その答えを知っているのだろうか。


は、両手を天に延ばす。
明け方の色付いた空が、の手をやんわり照らす───しかし、答えは出ない。


天は唯黙ってそこにあるだけだ。



「・・・・・私は・・・・」
「────・・・」
「・・・・!」


何も言わない天に対してですら、あまりにも小さい自分を呼ぶ声がして、驚きには身を固くしてその声の主を見た。




そうして、少し時が経つと、おずおずと闇から出てきたのは────速水 雄矢だった。





彼がこの時間にすることといえば、リハビリがてらの朝稽古だろう。
は予想が立ち、俯く。


そう、彼にリハビリを進め、稽古の型を一から教えたのは、だった。



「昨日は───すまない。・・・感情が、先走って・・・・嫌がってた・・・のに。その・・・・」



嫌────ではなかった。
本来なら───本来の自分だったら────きっと彼を受諾していたかもしれない。



だが───昨日は、それが出来なかった。




何故?



「・・・でも、考えて欲しいんだ・・・。俺が・・を好きな気持ちは────変わらない」


何故──────



否。




答え等。
とうに出ているではないか。





『─────殺せ』




子宮の中の、藍染が囁く。




殺せ、と。



殺して、奪えと。









「────雄矢、さ、ん」








────やっぱり、あの方は




脳裏に浮かぶは、藍染の『優しい』笑─────








────愛してるよ』











──────────裏切れない。








「───・・・?」
「私───雄矢さん、の事・・・好き、です。好き────だけど────『愛してる』じゃ、ない・・・」



────カチャリ。




白刃が、まだ明けぬる闇に輝く。
一体この少ない光彩からどうしてそのような輝きが得られるのか。


────さながら、吸収しているかのように、それは強く晃めく。




「ゆ、や、さ───・・・」
──────・・・」
















──────ポツ・・ポツ・・。





「っ──────」



どうせなら、一突きで。







そう覚悟して、刃を思いきり一点に突き刺した・・筈だった。
だがしかし、天はあくまでも悪戯で────。




「っな、・・・な、んで・・・ッ!?」




ブスリ、ザクリ、ズッ。



何度も何度も、体のやや中心から外れた左に、刀身を振り翳し、斬り刻み、また、突く。
だが、彼の中心から血は噴き出さない。
怪我でろくに動けない人物を───どうしてこうも一回で仕留められない?




何度も何度も、彼の肢体を斬り刻ませるのだ─────?





「アァ・・ッお願い・・ア・・嫌ァ゛あ゛ッ!は・・ゃ・ッく・・・ッ──んで・よぉっ!!」





濡れた刃先には驚愕に呆然とした顔、しかし何処か納得したような男の顔が────
水分に歪んだ視界に、ぼんやりとだが、はっきりと、映し出されていた。



血は水平から投射し、緩曲線を描きながらビチャ、ビチャ、と音を立てて血溜を作る。


刀が晃めく度、それは様々な箇所に出来ていった。







「・・・どうしてッ・・!?何で────」





「  」









────── ズ ッ 。 











「──────」








何故───心を突けない。








そう口にした瞬間、血塗れの男の手が、己が刀を掴んだ。









ポツ・・




ポツ・・




ポツ・・ポツ・ポツ───・・・ザァアアァアア────











雨が、降る。





驟雨か─────。
天は─────明るい。









はぼんやりとそう思いながら、何度も、何度も、「ごめんなさい」と、呟いて天を見上げた。
口を顎が外れる限界まで、大きく大きく開いて───。






天を向くは紅に染まり鈍く輝く刃と、何よりも有罪の頭(こうべ)。






天から落ちた雨は、どろりと纏わりつく血を洗い流してゆく。



まるで、速水の様に。








「─────ごめんな・・・・」
「ごめッ、なさ・・ッ!ごめんな・・さ、いッ、ごめッ・・・なさい、
 ごめんなさい、ごめ・・・なさぁぁあぁあ・・・・ッッッ!!」




速水の手は、しっかりとを抱いていた。
こんな状況においても、彼女を冷たい雨から、守る様に。
そして、彼女の背をあやすかの様に、撫でた。





それはまるで、雨の様に。






「───謝んな・・・?・・・今───やっと、わかった・・んだから、さ・・・・」
「ごめ・・・・さ・・・ッッ!!!」






どくんと拍動がする度、が一突きした心臓から血が噴き出し、の手を染める。
しかし、雨がそれを掻き消した。






速水は、次第に弱まる規則正しいそれを噛み締めながら、それでも震える手で、彼女の背を撫で続けていた。







「涼、子が・・・・好ん・・で戦いに出て・・行った、理由───・・・やっと・・・」
「ゆうやさん、・・ぅやさぁぁあぁあ────ッッ」




ついにがくり、と背を撫でる手が落ちて、彼は呟いた。







「────涼子も、きっと───守りたい物があったからこそ、戦いに出たんだ───」








だから、も、悩むな。










────ありがとう・・・









ついに彼の拍動が止み、周囲は雨の音しかしなくなった。


まだ血は流れているのに、魂は此所にない。




まだ体は完全に温もりを失っていないのに、




昨日まであれほど元気に笑って、冗談を仄めかしていた彼が、
安らぎだった彼が、
自分の希望が、
あの朗らかな笑みが、
快活な笑い声が、
暖かな腕が、
落ち着いた呼吸が、
憂いと優しさを秘めた瞳が、
心地の良い低い声が、
戸惑った顔が、
照れる仕草が、
体温が、
彼の、全てが────────






此所に、ない。




ああ、自分は、自分が大好きな物を全て、全て─────




自らの手で、葬り去ってしまったのだ─────────。






「っや・・さんッ、ゆ…ッ矢さ────」






しかし、彼女に声を上げる事は許されない。

同胞を手に掛けてしまった、今、そしてそれが藍染の差金となった今───
彼女に、謝罪の叫び声を上げることなど────許されないのだ。




たとえ、喉を切裂いたとしても、声帯を潰したとしても。



許されない。





許されない────『絶対』。
















ザァアアァ──────。




雨が、降る。




ああ、彼の天から────雨が、降る。







ああ・・・・・。











────ズッッ!






悲しみに朦朧としたの意識のなかで、妙にその感覚だけ、冴えて見えた────。



血塗れの彼女の背後には、一匹の巨大な虚。








そうだ────・・・・元々、こいつがいなければ。







こいつがいなければ─────・・・自分が速水に、直接手を下さずに済んだのだ。





こいつがいなければ・・。










こいつさえ、いなければ──────!!










「ぅぁ゛ぁぁ゛ああ゛あ゛ア゛アア゛ア゛ア゛───────!!!!!!」









ザァアアァァアア──────────────・・・








──────雨は、の激昂の涙も、倒れる速水の血をも、洗い流す───────。














────雨を慈しみと喩うなら、この雨も、また道理だろう───────・・・・。









********






泥。
水。


・・・血。



真白い、朝日の中では目の前にある三色を見較べていた。








ポタリ。
ポタリ。


三色が混じって暗黒の渦がを包んだ時、格段それに恐れをなすこともせずには辺りを見舞わした。

音の正体──そんなものはどうでも良いが、緑から雨雫が落ちて、
渇いた地表に水溜りを作っている光景を目の当たりにした。
そのまま吸い込まれる様にしてぼんやりとそこに近付くと、自分の顔が映し出される。



ポタリ。
ポタリ。



しかし、くっきりしていたそれも、髪から滴る水が波紋を作り、ぐにゃりと規則正しく歪ませる。
そしてそれを見て彼女はくすりと諦めの笑みを見せた。


水面(みなも)に映し出されているのはまさに自分なのだという現実に、笑いが止まらなかったのだ。



ポタリ。
ポタリ。


・・ポタリ。



次第に視界が歪み、波紋の一つに自分の涙が加わった事を知った。


しかし───ああ、幸いだ。
こうも雨に濡れていては、これが涙なのかもわからないだろう。
実際、こんな冷たい涙が生きている死神の目から流れてくる訳がない。


は目を細めると、水面をパシャリと蹴りつけて後ろを振り返った。


そして再た、目の前の光景に絶望の笑みを漏らすのだった。



「─────」



目の前には、藍染惣右介の自室の襖。


部屋が移動してくる訳もない。紛れもなく、無意識のうちに自分は
──本能は、此所を『還えるべき場所』として選択したのだろう。






ああ、なんて自分は無力なんだろう?
どうせ叶わないなら、最初から、足掻かなければ苦しまずに済んだのかも知れないのに。





私は、『』は───一体、何を思って、何をしたいと願ったのだろう。




一体────誰に『』と、呼ばれたかったのだろう─────。








「───






からり。



焦点の定まらぬの目の前の襖が開いて、中から静かに出て来た男はそのまま縁側に屈みこんで、
自分の目線やや上から見下ろして来た。


は自分の名前が呼ばれた事にしか反応を示さず、ただ漠然と、冷涼なる顔で前を見据えていた。



「────ご苦労様」




幾許かは雨に消されているはずだったが、どうやら罪業の香は消えてはくれないらしい。
それを認めた男の声音は何よりも冷徹に、そして暖かい気がした。



「・・・拭きなさい。見苦しい」



ぱさり。



は自分の頭に柔らかい布が乗ったことを認知した。
そして同時に、ふわりと嗅ぎ慣れた男の薫りがしたことに何よりも安堵と憎しみを覚えた。


だから、手をあげようにもあげられないのだ。



「・・・」



なにかに耐え切れなかったのか男はの頭上の布をとり、無造作に、荒々しく彼女の血に塗れ、
バサバサにまとまった髪を拭き始める。


「・・・随分、濡れたな」


そのまま、く、との顎を片手で上げさせる。
嫌が応にも瞳と瞳がぶつかった。


一体・・・どんな表情をしていたのだろう。
あんなにも憎い男が、僅かに瞳を見開いている。



「・・・いろいろなものに・・・濡れて・・・濡れて・・・破けそうなんです、藍染隊長────」



唇はそのままで、声は何の抑揚もなく語る。
ただ、瞳は藍染の瞳を見つめながら。


すると、藍染も口を開いた。



「お前は傘を、持っていなかったのか」


間が開き、はまた水平に声を吐く。


「傘は、持っていました。けれど、それは誰かに油を注いでもらわないと、ただの紙になってしまいます」


ポタリ。
ポタリ。



「隊長、知っていますか?傘は、人を突き殺すことも出来るんですよ。
 唯────一度に殺すことは出来ずに、何度も、何度も・・・何度も・・・
 苦しみを・・・苦しみを・・・与えながら・・・」



は、ゆっくりと瞬きをしながら、藍染に話しかける。
そんな彼女の瞳を無感情に見つめる藍染の瞳。
一体何を思っているのか。
それは最早の興味のうちではなかった。


また少し間が開き、藍染も水平に声を吐いた。


「なら、お前はさながら先のひしゃげた、びしょ濡れの傘か」


「・・・・ふふ」



くすり、とあの笑みを見せて涙を流すの瞳からまだ目を外さずに藍染はに告げる。


やや上から、見下すように。
は、畏敬するかのような位置に立たされていた。



「・・お前は速水を生かしたかった。だが───殺さなければ、自分が殺されていたんだ。
 生かしたかった───日に日に元気を取り戻してゆく速水を、幸せな速水を、生かしたかった───。
 だが、───殺さなければ、自分が死んでいたんだ。─────仕方なかったんだ」



悔しい筈なのに、憎い筈なのに、何故こうも笑みが零れるのだろう。

涙と笑みは止まらない。

朝日が眩しい。

眩しすぎて─────霞む。


全てが、次元が────嗚呼、何もかもが、眩しく霞む。


藍染の悪魔の囁きも────霞む。



「─────私の元へ来るが良い」




『そうすれば、お前が手に入れられなかった選択肢が、それだけでなく、数多の死神が手に入れられなかった選択肢が
 ────真理が、総てが、掴める』




脳裏に浮かぶは、死に行く者に祈りを捧げる幾人もの人物、
瀕死においても生にすがろうとした四番隊隊員の瞳の色、
死に際の速水の指、
血を洗い流す慈しみの雨、
そして、逝く者を見届ける卯ノ花の悲しみの顔────。




総てが、掴める。







総てを、掴めたら────────・・・・・










この苦しみから、自分を・・・・・皆を・・・・・・・?







皆を・・・・・・・救える─────・・・・












「明日からは、十三番隊に潜入を開始してもらう。
 ──────全てを、掴む為に────────」









唯溢れる絶望の笑みに、迸る、体温を持った涙。







露が乱反射する白色光に、ただの笑顔と、藍染の無表情が七色の永遠を告げていた。









**********




ポタリ、ポタリ。


「・・もう、悲しまないであげて下さい。・・」


『ほら、天もこんなに晴れて』だから彼は気持ち良く天に召された筈です。
と、そう言いながら卯ノ花は天を指し示した。


突然の土砂降り雨に見舞われた四番隊隊舎は、夕暮れの茜色の輝を反射して
確かに激しい雨が降ったことを物語っていた。


しかし、卯ノ花が言うように今では空は快晴であり、眩いばかりの赤が一面を、そして尸魂界を彩っている。


「人は移ろい..いずれ死すもの。大事なのは、時ではなく、時をどう生きるかではないですか」
「・・・はい・・・」


天に召された彼の人生が充実していたかなど、は知らない。
少なくとも今は亡き妻涼子との人生は充実していたことは分かれど、
一度死に面してからの人生はどうだったのだろうか、など。
恐らく、理解など卑し過ぎるのだ。今の、罪に濡れきった自分になど。



「・・・理解りましたか?」
「・・・」


しかし、卯ノ花が言うように、何故天はこんなにも美しく小さな自分を照らしてくれるのだろう。
茜色のそれは、どこまでも雄大で、畏敬の念を抱いてしまうほどだ。


これが、赦し、というものなのだろうか。
天は、彼は、それでも赦してくれるというのだろうか。


「・・はい」


は天の色を閉じ込めるように、瞳を閉じ、強く頷く。
その彼女の決意の瞳を逆光に見て、卯ノ花も何かを決心したようだった。
彼女は自分の背後にあった縁側の奥から、何やら重そうな本を持ち出してきた。


「それは・・・?」


ぼんやりとは尋ねる。
すると、彼女は少し沈痛な面持ちで口を開いた。


「驚かないで聞いて下さいね。・・・これは、速水君がまとめた、さんが所望していた台帳
 ・・・半年前からの四番隊の物品搬入記録、謄本です」


え、との喉から声が上がる。それもそのはずで、速水はずっと病床についていたはずなのだ。
その彼が何故台帳を──しかもかなり前のものから、何故──まとめられたのだろう。


「・・・実は、さんの他にも速水君を看病してくれていた女性隊士がいまして、
 その方がおっしゃるには───さんがいない隙を見計らって台帳をまとめていたそうなんです。
 紛れも無く、さん・・・貴方の為に」
「─────」



ハッ、と過去に光りが当たった。
それはそう遠くない昔───自分が看病に行った時───
確かに、彼は病人の身でありながら仕事場にいたことが、あった。





『いや。俺は仕事はあまり好きじゃあない』
『え……そんな筈ないですよ。じゃあ何でこんな抜け出してまで……』
『それは……』
『はぁ。‥‥変な人ですねぇ』
『お互い様だろ?』
『ふふ』






───は、グ、と唇を噛んだ。



「今日・・速水君の部屋を片付けに行った時に、これが机の上に置いてあったんです。
 恐らく、今日渡すつもりだったのでしょう、きちんと製本されて、袋に包まれていて・・・」
「・・・・・・」
さん、どうか罪悪に潰されて、彼を見舞わないなどしないで下さいね。
 ・・・せめて、彼の部屋にお別れをしてあげて下さい。
 ・・・彼の、さんへの気持ちを・・・知らない訳ではないでしょうから」




涙さえ、出なかったのだ。



だから、せめては笑った。



笑って、震える手で謄本を受け取った。
かさりと音を立てる本からは、速水の体温が伝わってくるような気がした。
それほど速水が寛大なのか、自分の指が凍っているのか、今は、わからない。





わかっては、いけない。





「・・・速水さんの死因」



笑うを見て、ふう、と息を吐きいくらか安心した顔つきになった卯ノ花は、最も重い口を開いた。



「先程は何者かに襲われて・・と言いましたが、恐らくは、最近頻繁にこの隊を襲う虚のせいでしょう」
「・・・」
「切り口から不安定な霊圧を感じまして・・・それは良く、虚に似ていたのです。
 どの霊圧にも似てはいたのですが・・・何せ最近の虚は特殊な能力を持っているものも、沢山存在しますからね。
 霊圧を掻き乱す虚がいても、不思議ではありません。
 それに、あのように何度も惨く、痛め付けるように殺傷するのは・・・虚としか」



そうだろう。



だって・・・彼を殺そうと、殺意を抱く人間や死神は、皆無なのだから。
そう、彼女の推理は、嗚呼、最もだ──────。



「・・・虚に、襲われて・・抵抗して死ねたなら、・・・速水さんも本望だと・・・そう、思います」
「・・・そうですね。名誉ある───名誉の死です」


また、「彼」に助けられた。


は遠くであの男が笑う声を聞いた気がして、また偉大な力の目の前に笑いを見せる。



虚に似た霊圧。



それは紛れも無く、自分の霊圧。
しかし、自分はどの存在にもなりきれない存在で、死神の霊圧を所有していない。
そうしたのは───「彼」───自分に罪無き速水を殺させた、藍染惣右介なのだ。


だから、また、彼の存在を側に感じざるを得なくなった。



これが、罪に与えられるべき───・・・罰なのか。



天を目指す、藍染惣右介に歯向かおうとした罪に与えられるべき─────・・・罰、なのか。





あの男は罰など与えないと言った。




それは、その真意は─────・・・これだったのか。




「・・・あ、あのっ」
「あら・・・宮下さん」



靄がかかる意識の中で、自分より背の低い、女性隊士が目に入った。
彼女を喩えるなら、清楚という言葉が適格な気がして、は瞳を伏せる。


しかし、それを遮るかのようにして彼女は自分に頭を下げて来た。



「あっ・・あのっ!ありがとうございましたっ」



一体何が、「ありがとう」なのだろう。
はそのまま、無表情で言葉を探す。



「あ、いえ・・っ。あの、その・・・速水さんの看病を、して下さいましてっ」
「あ・・・」
「彼女です───貴方の他にも速水さんを看病していて下さった女性隊士というのは・・・」


卯ノ花の説明に、ふ、と目を向けて見れば、頬を赤くした、可愛らしい印象の女隊士が立って自分にお辞儀をしている。
彼女が折っていた背を伸ばして見れば、その目許は腫れぼったく赤くなっていた。



「・・私、速水さんのことが好きでした。でも・・・速水さんは貴方と仲が良くて・・・。
 貴方は、私の憧れでもありました」





だから、今まで速水さんの面倒を見て下さって、希望のうちに彼を逝かせてくれて、
「ありがとうございます」と────そして、だから、「悲しまないで下さい」と─────・・・



そう、彼女は泣きながらに微笑んだ。










ぽたり、ぽたり・・・。







雨雫が水溜りに落ち、永遠の奏でを空中に運ぶ。



一人になったは、強く吹いた風に身を任せ、両手を広げて天を仰いだ。




『─────私の元へ来るが良い。
 そうすれば、お前が手に入れられなかった選択肢が、それだけでなく、数多の死神が手に入れられなかった選択肢が
 ────真理が、総てが、掴める』







総てを・・・





総てを・・・掴めれば、





総てを掴めれば─────





悲しみや、苦しみは、無くなる──────・・・・・・













は、深呼吸を一つ吐き、光り輝く天空を唯、見つめていた。



















もし 私が空気になれたら
この世界 魂
総て 犯されるの




それでも 暖かい
私に 差し延べられる手
それすら 気付かない




せめて 私
想いだけは 白のままで
嗚呼どうか どうせなら
私を詰って



眩しい紅で 微笑まないで



もし 私が贖えるのなら
この世界 総て
悲しみ 苦しみ 大海に




振り向けば
貴方が笑う
天を目指す
貴方は瞳に




なら せめて



私は 青い音を呼びたい
包まれて
そして 包みたい
今は届かない
約束の場所...
















───────────







枷鎖(かさ)・・・@ かせとくさり。昔、罪人をつなぐのに用いた刑具。
         A 禅宗で、我見(がけん)など無形の束縛を、1にたとえていう語。

船・・・・・・・・弘誓(ぐぜい)の船の意。仏語。衆生救済の誓いによって仏・菩薩(ぼさつ)が悟りの彼岸に導くことを、
         船が人を乗せて海を渡すのにたとえた語。誓いの船。


別に菩薩=ゼン様ではないですが(もしそうだったら笑える←おい)



えー、ということで速水編最終話でした。
久々にアプしたのがこんな辛いお話だとは、なんだか運命感じてしまって仕方ありません。

えー、なんというか・・・。云いたいことは全て本編に記した気がするのであえてあまり書きませんがw
読みたい方だけ↓反転よろです。



は今回の速水との出来事が、藍染離反意思の罪と罰という形でおいていますが、それすらの推測であり、
藍染さん自体は「速水殺害命令しか」だしていません、よね。
だから最初から藍染さんが仕組んだわけではないのです。
また、仕組んだかも知れませんが。


まぁ、そこらへんの真偽は・・・読者様のご判断に委ねたいと思います。


これから先のお話で明らかになるかもしれないですし、ならないかも知れませんし・・・w
というか私自身も分かっていませんので(おいおい)


い、いや、こういう性格の人物だったら〜というところでしか執筆力根源にしていません(オリキャラ以外)ので、
私自身その人物の心は読めないわけで(現実世界と同じように)
ゼン様にしろギンにしろ、浮竹さんにしろ、読めないです。


あやふやな文章ですが、頑張って妄想して書いてますw



えー、次回から十三番隊潜入・断罪編が始まります。
かなりアレ、です。神がかってきます。
だってゼン様は天の座に就いた死神ですからね!(どええー)





これから救済・断罪など、ようやく藍染さんルート最終話に繋がってくるテーマが出てきます。
ええ、まだまだ序盤ですから個人ルートに入ってからようやく中盤、それからちょい山がきて後半、
そして終わりですね。

しかし――毎回通って、ご覧になっている方はもううすうす感づいているかもしれませんね。
こんなにひねくれてる性格の私が、果たして形のある「終わり(ENDING)」を書くのか?とか・・・w
まぁ、私でも分かっていませんが(またかよ)



ではでは〜