第二十七話「断罪。」
ちぎれた空の波間から
こぼれさす光の道しるべ
近づいていく静寂に
やわらいだ縁どりが燃えてる
昔見た聖書のページを
想い出すとあなたが笑った
この目さえ
光を知らなければ
見なくていいものがあったよ
からだが
あなたを知らなければ
引きずる想い出もなかった
小鳥が
声を殺していれば
あの時翼が折れてたら
あなたが
わたしを抱いていたら
今でも溶けあっていられた?
ひかり舞う届かない海で
あふれる夜にあなたが見えるよ
生きながらえるなら
今一度。
七色の海に あなたの裸体を
沈めたい。
【流星之軌跡:第二十七話「断罪。」】
───ガシャアァアッ!!!
「────っ」
丁度襖の敷居の所で喉笛を軽く掻き斬られたは、よろめく所を藍染に蹴られて壁へと打ちのめされた。
そこには木製の机があり、雛森が活けたであろう花の花瓶が処狭しと並んでいた───そこには成す
術も無く背中から突っ込む。
腰が机の角に打ち付けられ、反作用に首を擡げようとしても力を込めれば掻き斬られた傷口が痛くて、
反射的にそれを止める。そうすれば頭はそのままの勢いで硬い木製壁へと打ち付けられる。
───ガンッ!!
パラパラ‥‥‥ッ
喉からは息をする度にヒューヒューと物哀しい音が漏れ、打ち付けられた衝撃に頭はくらくらしながら力無
く背を机上に預けた。
すると抵抗すら無くした手は机の面を擦る。そこには花瓶が割れて散らばる硝子の破片ばかりがあった。
それらに勢い良く手や腕を擦ったものだから、破壊に触れた部分からは血が滲み出す。
頭は朦朧としているのに、やけに腕に引かれた紅の痛みだけ脳天に突き刺さる。
「────‥‥っ」
しかし腕に引いた血を見ようと首を捻ろうとした時、視界の上から力強い男の手がの血塗れの首を握り
潰そうと押さえ付けてきて。
凄まじいまでの腕や手の痛みと、首に出来た傷の痛み。それと今度は、圧迫感と伴う窒息の危機───血は
首から流れてだいぶ漏れているだろうに、それでも頭には血が堪って晴れ上がるような感覚に見まわれる。
息など出来そうにもなくて、只暗闇の中の藍染を見れば、恐ろしいまでの無表情。
そうしてどうしようもない罪悪に唇を動かそうともがけば次第に黒に染まってゆく視界。
同時に耳には自分の鼓動の音が爆音の様に鳴り響き、夜虫の鳴き声や風のざわめきの音がつんと消え失せた。
「─────」
しかし、もう限界か、と思った所で藍染はの首を絞めていた手を解放する。
何事かとは思えど、急に入って来た酸素に激しく咳き込み呼吸をした。その度に不完全な喉笛に激痛が走るが、
そんなことは構っていられない。
「ハァッ、ハァッ、ハァァッ、ハッ‥」
しかし、そんな時も束の間。
「────ぅぐッ」
再び腹を蹴られて今度は何も無い、寝室の壁に叩き付けられた。
背が壁に付く時に鈍い音がしたから、どこかの骨の一本や二本いったかもしれない。
は必死に息をしながら、ぼんやりとそんなことを思った。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
しばしの間があく。ようやく呼吸も整ってくれば、耳に鳴り響いていたあの爆音も静まる。
そしてその代わりにまた外界の音を知覚出来る様になる。
───ギッ、ギッ‥‥
「はぁ‥‥はぁ‥‥は‥‥」
────ギッ‥‥、ギッ‥‥
知覚する。
でも、怖くてあまり顔は見たくなかった。
知覚する。
───あの男は近寄っているのだ。
「─────」
───ギッ‥‥
床の軋む音が、三尺程前で止まった。
「───」
代わりに聞こえて来た声は、いつもの彼の声の調子とは明らかに掛け離れていたものだった。
月さえ雲に隠れた漆黒夜、苦しむ顔が見れるようにと、足下にいつもの灯籠が立つ。
「」
三度目の呼び掛けに、は掠れた声を捻り出す。
「は、ハ‥‥ぃ‥‥。何でしょ‥‥か、‥‥ァッ、あ・ゼ‥‥た‥ちょ‥‥‥」
ヒューヒューと掠める声音に、骨に貫通する鈍い音と共に絶叫が、加わる。
「────ぁ゛ア゛アァああぁーー!!!」
小刀が二本、の両手のそれぞれの甲に貫通して、背にしていた壁に突き刺さる。
痛くて痛くて抜きたい衝動に駆られるが、勢い良く放たれた小刀は壁に深く刺さっていて、
抜きたくても激痛に叶いそうもなかった。
尋常ならぬ痛みに、の額に脂汗が滲む。
「ひっぃいッ・・・ぃぁ・ゥぁアァ・・ッ!!」
愛を迎えるというのが如何に怖くて痛いものか。
痛みに流れる泪さえ、甘い覚悟だったのだと、焼けるようにを苛む。
絶壁に咲いた血の花のように、は磔になりながら呻く。
「───何でしょうか、だと?」
ふと絶望の影に、痛みで霞む目を凝らせば目の前には藍染がいた。
依然顔は無表情のままで、徐にの死覇装の合わせ目に手を伸ばす。
───の顔が、凍った。
「──あっ、それは駄────!」
「・・・・・・」
藍染がの首から繋いでいた銀を引き千切ると、この血の惨劇には何とも似つかわしくない、
シャラリと涼しい音が響く。
乱菊からもらった十字を藍染は冷酷な無表情で見下す。
「そっ、そ、れはっ・・!!」
が慌てて弁明を口にすると、藍染はふと─────
笑った。
「────」
「違うッ、違うのッ!!!私は貴方を裏切ったりしない!!!嫌ぁッ、止めて!!裏切らないからッ!!!」
痛みなど忘れて、顎が外れるくらい大きく口を開けて。
しかしそんなの必死の懇願を、藍染はただ「五月蠅い」と一蹴した。
「───お前は、何故」
「違うッ・・違うぅう!!!」
「未だ有限に、固執するんだ────」
残念そうに、そして何よりも面白そうに、怒りに震えながら藍染は笑う。
そして───足下の灯籠の火に、そのロザリオを翳した。
「────・・・」
絶望、だった。
唯一の希望の証しが、見るも無惨に散って逝く。
「────・あ‥‥あぁ・・っ」
磔になったままで、炎に身を赤く染める銀を目に焼け付かされた。
所々は高温に変形して、ひしゃげながら絶望の光りを宿す。
「───罰だよ」
「‥‥‥‥‥‥」
泪を止めど無く流しながら、それでもは懇願するように藍染を見つめる。
どうせ変形してしまったロザリオは、その罰に使われると知っていながら。
酷く、本当に殺したい程憎いが、それでも─────
その憎しみが募る度、藍染のことが愛しくてたまらなかったのだ。
「私は───有限に固執など、していません」
「─────」
「無限を有する藍染隊長に、付き従うことを、身に刻んだはずです。だから────」
愛を伝えようと思った。
有限を捨てるということを口にしようと思った。
その瞬間、袴は破り去られ
赤く光るロザリオが、腟口に突き刺さった。
────ジュウウ‥ッ
「ア゛ーーーーーーッ゛ッ゛!!!!」
熱が下がる音がして、やがて鼻には人肉の焼ける匂いがする。
間違えなく、それは自分の肉が焼ける匂い。
「ァア゛゛ッ!!ァあ゛ぁ゛あ゛ッ!!!!」
「お前はッ」
まだ完全には熱を失ってはいない焼けた銀の十字を、子宮を傷付けるように掻き乱しながら突き上げる。
急激な温度変化に肉は貼り付くが、それを引き千切り容赦無く藍染は慣らしてもいない腟道を引き裂く。
「お前は有限に固執するから、こんなものを持っているんだろう!?」
下半身の痛みと揺さぶられる度に手首に走る激痛に半狂乱になりながら、は声にならない獣のような叫び声をあげた。
刃に貫かれた手が、灼熱の金属がを苛む。吐き気を通り越して意識が朦朧とするほど。
「生きたいのなら、こんなものを持ち歩く筈が無い。見ろ!!」
「ぁ‥グッ‥‥」
急に熱が抜かれて目の前に掲げられる。痛くて痛くて脂汗を身体に滲ませて、それでも藍染が愛しいからは睨むように
して見上げる。
藍染の瞳は闇に沈んでいて、怒りに充ち満ちているようだ。
「何故世に謳われる『神』や『神の子』は無限を讚歌しながら、有限を有する?こういうような貌を、
信仰の拠り所とするんだい?」
「‥はぁッ‥はぁッ‥‥‥」
「そんなのは決まっている─────」
掃き捨てるように藍染は呟く。
「彼らは無限ではない。神性の破片(かけら)すら有さないからだよ」
そして熱を失ってひんやりとした銀の塊をまたの中に突き刺す。
「う゛くッ‥‥!」
「それでもお前は有限を棄てていると言うのかい」
弱りながらも喘ぎだすの表情を弄ぶかのように悪戯に、緩急をつけては神なる標をまるで罰かのように抜き差しする。
ひしゃげた十字は指や雄とは違い、冷たく硬く、そして歪な形でに新しい快感をもたらす。
は良いとなど感じたくもないのに、それなのに本能は十字を締め上げて。
自分の出すあられもない嬌声に、どこかで冷えた瞳で自分を見下す自分がいた。
───思えばその自分は、藍染に初めて犯された時に、産まれた自分だと知る。だけれども、今回はどことなく軽蔑する
自分ではなくて────分かれ身のは、磔られ鳴き叫ぶを寂しいような、慈しむ様な瞳で見つめていたのだ。
「ふ…ッン─‥ゃあッ……!ア、あぁッ‥ンッ、あ‥あァーっ!!」
「十字を締めつけるのは、お前が有限を棄てていない証拠だろう──!」
────ズグンッ!
「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ー!!!!」
最後に藍染は子宮の最奥まで達するほどに十字で突き上げる──ようやく抜かれた十字を見れば、自分の淫液と、
おそらくどこかが裂かれて出た真っ赤な血がどろりとして、銀の色を変えていた。
「‥‥わ、‥‥たし………は‥‥」
「……フン…」
もう急に興味を失ったかのように、まるで玩具のように藍染がの血に染まったそれを床に投げ捨てればガシャン、
と涼やかな音色は変音して死に絶えた。
その音に咎を味わいながら、は何とか唇を動かす。
「‥‥たし、は……。ただ、‥‥誰かを‥……笑わせ……たい‥‥。だけ‥‥です……」
すると、目の前の影がわずかに揺れた。
「───お前は、神になりたいとでも言うのか?」
声は沈み、高まった霊圧は今直ぐにでも自分を捻りつぶせそうだ。
「ちが‥‥っ。ごほっ‥‥!‥‥ちがう‥‥。私は───ただ───」
『藍染隊長に、杯を捧げる覚悟と屈伏をしたいだけなのです』
そう口にした瞬間────の首筋から腹にかけて、仕置の刀が下された。
「ぁあぁ゛ぁぁぁ‥‥‥ッッ!!!!」
当然死覇装は引き裂かれ、胸と裂かれた袴から脚は覗いて腰紐以外は不完全なかたちとなる。
露になるの白く滑らかな素肌に引かれた幾千もの罰の標。ほとんどが藍染に言われてが引いた刀傷だったが、
今回は実際に藍染によって引かれた。
今までの標のなかで一番大きくて、内蔵まで達しそうな深い標に、何故かは心が満たされてゆく。
「──錠は温いから嫌いだよ‥‥鍵さえあればいつでも逃れられるし、それがなければ手首を落とせば逃げられるからな。
───その分、逃げられないよ───愛情という錠からは」
淡々と唇を動かしながら、抵抗もせず、胸に走る激痛に苦しむにまた刀を走らせる。
先ほどの傷と垂直になるように。
「お前は神になどなれないよ」
出来た血の十字を眺めて、藍染は吐き捨てる。
喉下から腹にかけて出来た赤の十字。今のは二重の受難を背負うかのように。
何も言わずに泪を零すの顎を手で乱暴に持ち上げた藍染の瞳。
茨の冠を被ったは唯こう呟いた。
「でも──知ってますか。‥‥世に謳われる裏切り者は、一番神の子に愛されていたのだと‥‥」
慈しむかのように、藍染の茶の瞳を見つめて、痛みを堪える。途端またその言葉が気に障ったのだろう──
裏拳で頬ごと殴られた後、首筋に噛み付かれた。
すでに裂かれている傷口に繋げたいのか、まだ何ものにも染まっていない白の肌に歯を立てて、左手で頭は
髪ごと貪る藍染に押しつけられ、抉られ苛まれまさぐられる。
───ずっ‥‥ずるっ‥
しかし、時折する自分の血が滴る音さえ今のにとっては優しい暖かさに変換されてゆく。
只ならない痛みは、全てどうしようもない憎愛へと変わり、快感へと変わる。
肉を噛まれて千切られているのだから痛くて仕方が無い筈なのに、下半身は淫らに揺れた。
それに気付いたのか藍染は太股から流れる透明な液を長い中指で掬うと、すぐさま荒い息を吐くの喉奥にそれを
突き刺す。
急な圧迫感と嗚咽感が押し寄せるが、いつもの情事の合図ではそれは純潔を守るへの見せしめと同時に、妄想の
棒を「舐める」忠誠儀式の合図だった。
頭の働かなくなったは本能的のまま藍染の容赦ない中指を、骨の節々まで舌に味覚触覚として残すかの様に
しゃぶる。
唇を窄めてなぞっては伝う唾液を舌で舐めとり、時には軽く歯を立てて、際どく先で撫でる。
そうしているうちに藍染は朱引かれた胸へと辿り着き、ようやく残忍な笑顔を浮かべた。
先ほどの冷酷な無表情の微笑とくらべれば、随分まだましな気すらする。
≪私が神の座に坐すと確信していないのか‥‥それともまさかお前は私が、────この私が────お前を、
最も愛しているとでも思っているのか?≫
惜しむ様に咥えていた指を放しては聞く。
久々にはっきりと聞こえた心の声──以前は痛々しく脳髄にまで突き刺さっていたその声すら、最早恐れなどなくて。
むしろそれに心地よさまでを覚えて、愛しい。
叶うならば、ここまで憎い魂の塊を両腕で抱き締めたかった。ただ───今両手は磔にされてそれは叶わないが。
「‥‥邪魔だな。光を映す眼など‥‥」
泪に濡れたの瞳はわずかな光をも反射して藍染の気に障った。
近くに刀が無いので目を潰されはしなかったが、変わりに先ほど裂かれた袴の切れ端で目をふさがれた。
残念───
口を私の血に染めた貴方を、もっと良く見たかったのに。
「──んっあ」
落胆していると、予告なしで胸に甘美な痛みが走った。
目をふさがれる前は闇の中でも彼の姿が見えたから何をされるのかある程度把握出来たが、こうふさがれては
何もわからない。
何をされるのか、なんて分かる筈もなくて、分かるのは触れられる感覚だけで───普段映す景色が無い分、
感覚が研ぎ澄まされる。
手の甲を貫いている刀の表面、自分が快感に悶える度に手の肉がそれによって裂かれてゆく感覚、
首の傷が空気に晒されて干涸びていっては、上げる嬌声によって再び裂かれる激痛、
血が滴りくすぐったい。
その先にある、素肌に走る、乱暴な舌使い、腹を這うごつごつした男らしい指、太股を裏から荒々しく掴み、
柔肌に食い込む五つの爪。
「ふぅっ‥・・は、ん……やぁッ!」
「淫らしいな、。視界が塞がれた方が‥‥締まりが良いぞ?」
≪全くお前は利口だよ。基本しか教えてはいないのに、抱けば抱く程自分にとってより良い快感を求める術を見つける
‥‥苦しみさえも、快感に換えてゆく───≫
───ズプリ・・・っ
腹を這っていた指が、ついに腟に差し込まれ、慣れない状況に確かに強く襞はわななく。
蠢き出す節々に普段よりも格段に違う快感が押し寄せてきて、締め付けてしまう。
それどころか、手の甲を貫かれているにも関わらず自ら腰を落として更なる快感をせがむ。
それもその筈、笑っているなら、はそれが一番良かったからだ。
いくら淫乱だと、汚らわしいと言われても、その教育者にとってそれは良い実践だと思ったから。
ほら、情けないぐらい見て。
だって、こんなにも私は淫らだ。
何も知らなくて、十四郎様に抱かれたことも、いや、交わるということすら知らなかった純潔な私は、
あの日あの夜、貴方によって染められた。
囚われた地下牢の中で処女を無理やり奪われ、快楽という名の劇薬を戴いた。流れる白濁の流れは、熟す前の罪の果実。
裂けた膜からは朱の誓い。そして副作用には服従という名の高潔な路を。
断罪と苦しみの、その先に得られるのは弘誓の救済かと思ったけれど、それは違った───得られたのは、たったひとつ。
貴方への、愛。
憎しみの、愛。
殺したいくらいの、愛。
殺したくて身が捩れる、幾千もの愛。
淫らに上げる嬌声は貴方への愛の賛美歌。
だから、笑ってくれるでしょう?
私は、貴方の良い子だから、笑ってくれるでしょう?
「アッアアァア‥‥ッッ!もっ‥‥奥にッ!おくにぃ・・キテるぅ・・藍‥‥た・・ちょっ‥‥、が・・ふァッ、イィッ!
きゃ・あっ、イィ‥よぉ・・ッイ、く‥‥ンッ!・・イ‥ぅうッ!!ぅあッん‥‥ッア、ぁっああ゛ぁ゛あ゛──!!!」
でも 暗闇の中でも、
貴方の心が分かる術を私は持っていたの。
≪───‥‥‥≫
それは、貴方が与えてくれた禁断の眼。
「はぁ‥‥はぁッ・・・ぁ・」
押さえる吐息に緊張が走る。身体を駆け抜けた熱は、急激に冷め逝く。
藍染の心声は────明らかに怒りと落胆の色を見せていたのだ。
「・・な・・んで‥‥」
息を切らしながら、頬に当てられている藍染の手に擦りよってみれば、それは裏切らない。
間違う事の無い心声の事実をただ目の前に突き付けられた。
「‥‥さぁ、何故だろうな。私でもわからないんだ」
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「こんなにもお前とは血の契りを交わしているのに・・こんなにも近いのに、最近のお前には・・虫酸が走るんだよ」
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・」
「有限固執が原因だろうが・・一体どこでお前は有限を覚えて来たんだ?あの男は・・・お前が殺した筈だよ」
思案する間が開く。
その間にも熱は冷めて、しかし変わりに何故か下半身が渇望を覚えて未だ潮に塗れ突き刺さっている藍染の四本の指を
やんわりと締め付け始めた。
「・・・・・」
小さく、息を飲む音と怒りの声。
「貫けば、・・・良すぎて死ぬかな?」
「‥え。・・‥─────ッッッ!!!」
途端、急に与えられた猛った肉棒───それは熱を持って脈動し、目隠しをされている上に一度絶頂を迎え、感覚が鋭く
なっているにとっては思わず嗚咽を覚えるくらいの快感になった。
しかし待つことなど知らない。怒りに任せて捩じ込み、上下に蠢く硬い人肉。
先の想像したそれではなく、本物のそれ。指などとはやはり格段に大きさが違う。
ズチュズチュと紡ぎ出される契りの奏では、の鼓膜から、淫らに調教された身体を更に犯してゆく。
背を海老反りにして、与えられる絶頂感に裸の胸を突き出し、口からはだらしなく唾液を流して、愛液と精液を垂れ流す
脚はガクガク震えて。
痛い程に勃つ、淡い胸の突起を藍染は弄ぶかのように舌で啄み、時折しゃぶり輪郭を舐め回しては焦らせて、次には血が
出るくらいに噛み付いて。
暗闇の中での快楽は、どうしようもなくの理性を破壊してゆく。
「ぁっ、アァ!あッ!あッ!はぁうッ・・・!」
もう何も、ほんのなけなしにも考えられなくて、振り乱した頭の中は真っ白になる。
長く結っている髪紐も最早千切れて、たわわに艶やかな黒髪は千の氾濫を闇夜にもたらした。
そして何も考えられないまま、淫らに腰を揺さぶられる振動に合わせて沈め、揺らして快感を追う。
「───どうした。‥‥っもう立てないのか?」
次第に快楽に力も入らなくなってきては力を抜こうとするが、それは刃が許さない。
重力は確かに快楽を更に与えてはくれるがそれは同時に、にえもいえぬ激痛を与えて苛むのだ。
どくどくと流れる多量の血液が、壁を縦に染めている。
「好きなんだろう?・・・この私の雄が・・」
「ウァぁあッ、んぁぅッ!!ひぁあ゛・・・!!いやっ!いやぁあ・・んッ!!」
胸を苛めながら、あいていた手で、硬くなり充血した肉芽を捻り嬲れば、官能な三点苦にいやいやと首を振るしか無くなる。
快楽からの泪は目隠しの布をぐっしょりと濡らし、泪が頬を伝う。
汗に貼り付く黒髪が、邪魔で。払おうと身を捩れば突き上げられ、また黒髪は肌に貼り付きを妖しく彩る。
首と手は真っ赤に染まり、薄暗い部屋の中には、ただ狂ったように何度もびくびくと痙攣するがいた。
「狂わせてやるさ・・・何もかも・・・。裏切ったお前には願ってもみない最高の仕置だろう・・・?
・・・・・・・いや・・・もう狂っているか」
今まで後ろや正面から挿入されたことはあれど、磔にされながらの挿入は初めてで、愛と向かい合ったは───
・・・藍染の笑うとおり、狂うしかなかった。
一番憎い宿敵、藍染に犯されることを無上の悦びとして、自ら潤う唇を、勃ち震える乳房を、びしゃびしゃに濡れた恥部を、
差し出して。
突き上げられて、肌がパンパン鳴りあって、高みまで上りきれば余韻に這い上がる絶望。
そこに沈み、休む暇など与えられるわけもなく、またすぐに突き上げられて、耳元で呪いの福音を囁かれて、まさぐられて、
掻き回されて、嬲られて、それでも飽きたら無いのか今度は道具を使って犯されて、犯されて、犯されて、犯されて。
振動機や乾いた火打ち木、それに火を付ければ愛液で消火をせまられて、それが蒸発する腐った匂いに吐いて。
吐いたものすら美味しそうに藍染は舐めとって、また犯して。立ったままの秘部への舌愛撫は拷問以上に等しくて。
腟に差し込まれ、貪られしゃぶられる感覚に、激しい耳鳴り。
世界が弾ける─────。
最早犯されすぎて言葉など浮かばなくなったころ、藍染は壊れるくらいにを突き上げた。
「ア゛ゥ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛─────!!!!」
───ブチンッ!
「ァ゛ァ゛アアアァアアッッ・・・!!!」
幾度もの快感に、ついにの手を貫いていた刀が彼女の手の甲の骨を断ち切って、は床へ倒れ込んだ。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
多量の愛液との血でぬらぬらと光る床に倒れるを見下すようにして、同じく藍染もの背の後ろに座り込む
───しかし、藍染は情事後の甘い台詞など吐かなかった。
重力に垂れて来る前髪を無造作に掻きあげ、裸眼を血の壁に移しながら、
「なんだ、外れたか───。ハハ・・・手首にしておくんだったなァ」
駆け抜けた快感に汗を滲ませながら藍染は幾許か荒い呼吸で残念がる。
口回りに付いた血を、血塗れの手で拭いながら。の愛液やら血液やら、己の精液やらで乱れ汚れた死覇装を正そうともせず、
そう、まるで公園の砂場で残酷な生体実験をした無邪気な子供のように。
しかしそれでも、明らかに満たされないことを藍染は強く感じていた。
たとえ手首に刃を穿ち、快感に彼女が自ら両のそれを切り落とそうと、次から次へと沸いて来る欲求。
僅かな光りをも反射し、きらきらと輝いては流れ落つ泪。
身体を愛撫し、突き上げる度に上がる鼻掛かる涼やかにも恐ろしい鳴き声。濡れた唇から差し出される赤い舌。
肉体的苦痛にさえわななく、開発し調教した少女の秘部。
譬え後ろの園を奪ったとしても、それでもざわめく彼女の狂った精神。
すべて、あの日あの夜、「こうなれば良い」と思って、描いて来た未来図。
無垢な半人間、半死神、半虚─────どの存在にもなれない愛に飢えた聖少女が、最も忌み嫌う死神に処女を奪われ犯され、
ついには奴隷の如く尽き従うという、彼女の血塗られた未来図。
それなのに────あぁ。
「はぁ・・・ぁっ‥‥はぁ‥・・・・」
そんな少女を見るだけで、脊髄に虫酸が走る。
どんなに犯しても、どんなに傷つけても、どんなに墜としても、癒えない。
飢える、飢える───あぁ、飢える一方だ。
「・・・・・・」
藍染はまるで物を扱うかのように血染めのの肩をぐいと引き倒し、仰向けに寝かせる。
そして出血の量を眺め確かめた後で、の顔を覗き込んだ─────。
────すると、激しいぶつかりあいからか、きつく結び上げた目隠しが、方半分くらいずれていて、
そこからの濁った黒目が覗いていて─────。
「・・・・・・・・・」
「・・・・たし・・・ぁ・・」
最早世界を映す目などいらないのだろうか、彼女の目は非常に空ろだった。
どこを見定めているのかもわからない目で、は切なげに、最期の力を振り絞って呟いた。
「・・・・わ・・たしは・・・た‥‥ただ‥‥‥・・・・・・・い・・き・たい・・・・」
「────────!」
「・・・いきたい・・・・それだ・・・け・・・なの・・・・に‥‥‥・・・・・」
は相手の心がわかる。
しかしの心は相手に伝わらない。どんなに彼女が望んだとしても。
そんなには、これを口にしては藍染に殺されることなんてわかっていた。
しかし彼女にとってはこれは最早本能が上げた小さな小さな心の叫びだったろうが────藍染には違った。
何故そうなるかは全くの謎だが、瞬間─────腹の底から煮えくり返るような怒りと、絶望の嵐が─────藍染の全身を駆け巡る。
寒気がする、今は夏だ。
この寒気は、だとしたら─────・・・。
藍染は無意識のうちに危機を悟り、重い身体を引きずるように立ち上げて、壁に刺さっていた二本の血塗れ刀の片方を引っこ抜く。
そしてその刃先はそのまま──────仰向けのまま放心する、の左胸へ。
このまま放置しておけば度重なる性交と、出血多量で死ぬだろう。
だが─────駄目だ。
そう「脳」が警告(い)っている。
「今直グ此奴ヲ殺セ」と──────唸り上げて、咆哮を上げている・・・・・・・。
背筋が寒い。
虫酸が走る。
渇望は止めどない。
殺さなければ。
─────キラッ・・・
刃先がきらめく。
違える事無く、照準は左の乳房。
何千年ぶりか、久々に手先がぶれる。
だから両の手でしっかりと握った。
一思いに殺せるよう。
確実に屠れるよう、ゆっくりと、荒ぶる息をおさえながら、血やら体液やらで滑りやすくなった床上を踏み締め、にじり寄る。
三尺。
二尺。
一尺。
さぁ───もう十分生かした───
さぁ───殺さなければ。
ぴたり。
ずたずたに弄ばれ切り裂かれたの裸体に跨がり、屈み。
あとは、この刃を柔い乳房に向かって突き立てるだけ。
深く、深く。
貫通するまで、心臓を抉り、潰す様に、深く、ぐちゃぐちゃに。
「─────さようなら、─────」
ザッ───────・・・!!
ついに、藍染の断罪の刃が、の心臓目掛けて振り下ろされた。
「────・・・いきたい・‥‥・・・・・・・」
─────ガタアァアアァン!!!!
「────ッ!?」
─────が、─一寸、という所で刃は偶然にも止まった。
何かが派手に倒れる音がしたのだ。
いけない───あまりにに集中しすぎて外部の者への注意を怠っていたか───?
前屈みになっていた体勢を直して、刀を引き、僅かに焦るがすぐに霊圧を探ればそこには何の霊圧もなかった。
となると、もしかしたらギンか要かが、報告かを珍しがって見に来たのかもしれない。
────どうせこのまま放置しても何も出来ないだろう。藍染はひとまず腰まではだけた死覇装を大雑把に正し、
刀を抜き身のまま懐にしまっての上から退く。
そして、物音のした土間の方へ出た。
───土間は先ほどの部屋とは違い、光がほとんど差し込まない。おまけに地面もそのままだから夏ながらにも
やや冷え込む。
どんよりと温い闇が凝縮された混沌の間───確か物音はここからした筈。
誰かと思えど、やはり姿はない。
だとしたら、何か物か?
物置と化している土間の辺りに手を這わせながら、藍染は冷たい地べたを、血で汚れた素足で歩く。
すると、
───ゴツッ・・
「────?」
爪先に何か固い物が当たった────足下に何かを置くような癖はないから、おそらく先ほど倒れたのはこれだろう。
それが何だか知りたくて、手で広い上げようと、足下の闇に手を伸ばすと。
────スッ
「────っ・・・」
指先に刃物で切られた鋭い痛みが走って、少しの光を闇に解かすように目を凝らしながら足下の物体を確認する。
すると、そこにあったのは刀。
随分古びたそれで、しかしこんなところに保管しているということは最近持ち出したということだ。
藍染は思案して、そして思い当たった───この古びた刀は、に千里眼能力を付加する時に用いた斬魄刀だ。
この刀の秘める力──しかし後天的に能力は付随するため、改造魂魄実験において、藍染は付随能力については
実際その実験体に会わなければわからないのだが──を無理やり抽出し、霊能力を帯びるという不幸な少女
に与えたのだ。
・・・それが、よくもまあ、この期に及んで生き長らえるものだと皮肉って、刀をダンと踏み付ける。
傾いた刀身には、付いたばかりの己の血が一筋なのに、酷くぬらぬらと輝いていた。
「─────」
その時、入り込んでくる筈がない土間に、背後のどこからか光が差し込んできて────刀が急に照らされる。
尖った刃先は、まるである一方向を指し示すかのように蒼く光って───────。
グ、と軽く、藍染の喉が鳴る。
蒼の閃光は、土間の最奥、丁度壁の辺りに在る、或る古ぼけた机を指していて────その机の引きだしを見れば、
光の粒がまるで水流のように零れ落ちていたからだ。
「・・・・・・」
無音で只、光が、溢れている。
憎い憎い、“アノ光”が。
「──────っ痛・・」
途端、光の泉に視線が釘付けになると同時に、藍染の脳裏に一筋の光の軌跡が走り、突き抜ける痛みをもたらす。
憎イ憎イ、アノ疎マシイ光。
しかし何故だろう。
胸が掻き毟られるようだ。
喉は異様に熱くなり、噎せ返る。
何かが脳に語りかけるように、足が次第にその泉へ向かって、自分に似つかわしくないくらいぎこちなく歩み出す。
アノ、焼ケル様ナ、光ノ泉へ。
「・・・・・・」
近付く。
とうとう古びた机の前まで来てしまう。
それにつれて、藍染の心の中では二つの感情が揺れ動いていた。
一つは、憎いアノ光に触れるなという警告。危険。
もう一つは────知りたくて仕方がないという興味とそして、不可解な郷愁。
────駄目だ。
────これを、開けては。
────封印した筈だろう。
────触るな、開けるな。
しかし、足は確実に机に近付き、瞳は光を吐き出す机を見下ろす。
焼け焦げたのだろうか、辺りが所々煤で黒ずんでいるそれは、流石に長年此処のような寂しい場所で生き長らえてきたのだろう、
埃に塗れて薄汚れていた。
その埃の粉塵すら光粒を細やかに反射して全身で藍染を責め苛み、誘(いざな)う。
────駄目だ。
────開けるな。
────開けるな。
────触るな、開けるな。
裏腹に、背は丸み、まるで絶望したかのように膝がかくりと折れて机の引きだしの前に座り込んでしまう。
膝立ちになった藍染の眼前は、光の泉へと続く入り江が待ち構えている。
目を潰すような眩しさを無表情で睨んでも、泉の主は何等怯むことはない。
────開けては、駄目だ。
なのに、うなだれていた手が持ち上がる。
持ち上がって、迷う事無く引き出しに向かう。
───駄目だ、開けるな!!
───我が悲願が達成するまでは、封じた筈だ!
───あの日、あの夜、交わした誓いを───
破るのか?
───お前は、只生きたかっただけだろう?
だから、私は悲願を成し遂げようとしただけだ。
お前の愛す白の為に──────
なら、やはり開けては駄目だ。
開けては、意味が無いだろう。
───なのに、何故───
何故、開けさせようとする─────!?
「─────」
ついに、引き出しに手が掛かる。
開けるなと命令するのに、腕の筋肉には力が籠り、指先は力強く取手を引く────。
─────止めろ─────
光りの濁流が、はち切れ、土間に溢れ出た。
は、藍染が出て行った一人残された仕置部屋で、ただぼんやりと、襖から覗いている僅かな天を見つめていた。
漆黒の夜。
愛を向かえた夜には、やはり月は出ていなかった。
雲ばかりが天を覆っていて、出る幕がないと言わん許りに。
思えば、色々あった。
お母さんのお母さんはお父さんのお父さんと愛し合って、お母さんとお父さんは生まれて、お母さんとお父さんは
互いに愛し合って、私が生まれた。
幾千年という中で育まれた奇跡のような星で、生まれたことすら信じられないことなのに。
私はこの世界に生まれた。
そしてという名前を授けられて、愛し、育まれて。
それ故に喧嘩して、馬鹿な私は家を、帰るべき場所を飛び出して───藍染によって殺されて、更木に召喚された。
そこで殺戮と恐怖に苛まれながらの生活をしてきた。
初めて人を殺した。そして初めて人を殺めることに正しさを認められることを知った。
でも代わりに、心を、記憶を無くしてしまった。愛されることに窮屈を覚えて、逃げた我儘───愛されすぎてい
たという大事な戒めと、事実を、忘れていけないそれらを、忘れてしまった。
忘れてしまったから、私は心を無くしてしまった。
忘れてしまったから、私は十四郎様に出会ってしまった。
十四郎様に出会ってしまったから、藍染に見つかってしまった。
十四郎様に出会ってしまったから、十四郎様を苦しめてしまった。
だって、私は十四郎様を愛し、十四郎様も私を愛して下さった。
それも窮屈になるまでの。
───血を分け合った兄妹、ましてや肉親でも無いのよ?それに、いつだって忙しくて、病だって抱えて。
隊員にだって好かれているから、彼らにも分け隔てなく配慮して。
それなのに、それでも十四郎様は、赤の他人である私を四十六室にまで逆らって助けてくれた。
愛して下さった。
変わらぬ止めど無い愛を、注いで下さった。
十四郎様のことを傷付けるだけの私なら、あの日あの時、更木で出会わなければ。獣に喰われて死んでいれば良か
ったのに。
悔やんでも悔やみ切れない。
だって、そんな十四郎様にお詫びをしたいと思って、憎い藍染に従っていたら、いつの間にか私は藍染を愛してし
まっていた。
それが藍染の言う「有限愛」なのか「無限愛」なのかそれは定かではないけれど、それでも私は仇を愛してしまっ
ていた。
もう完全に、どうしようもないくらい、十四郎様を、裏切ってしまったの。
愛に窮屈に思って逃げ出して、心を無くして、愛に渇望して。
愛の恩返しをしようと思えば、裏切ってしまう。
嗚呼、あの日あの時、もうちょっと、ほんのちょっとだけ、私が大人だったら。
愛の価値に気付いてさえいれば───十四郎様に出会わなくて済んだのだろうか?
そうすれば、藍染にも出会わなくて済んだ?
私と出会わなければ、十四郎様は幸せだった?
その方が幸せだった?
それとも、それでも十四郎様は────・・・・・・?
でも、もう。
どうしようもない。
そんな甘い期待をしたって、もう仕様がない。
見守る月は破壊されて、雲が天を隠してしまった。
暗闇の中に、僅かな海さえ見る事が出来ない。
失われてゆく血液に、目が霞んで来て、視界もゆがんで。
でも────もう、これで終わりだ。
やっと、これで、終わる。
もうすぐ戻って来る、藍染に殺されるから。
愛を裏切った罰としての運命がこれなら、受けても良いかもしれない。
優しい十四郎様に期待をしながら、私は生まれて初めて本能から愛した藍染に殺される。
死んだ後は、どうしようか?
叶うなら、千の風になって・・・我儘は言わない、十四郎様に会えなくたって良いの。
千の風になって・・・この世界に吹き渡りたい。
この世界で苦しむ人には慰めに、喜ぶ人には希望に、迷う人には道標に、愛す人には未来に───なりたい。
どうか、神様。
ああ、でも───忘れてたな。
────ギッ、ギ・・・
その神様は、私を殺しに来るんだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ありがとう。
ありがとう。
雄矢さん、
宮下さん、
涅隊長、
ネムさん、
卯ノ花隊長、
朽木隊長、
阿散井副隊長、
日番谷隊長、
乱菊さん、
・・・・・十四郎様。
この世界の、私を存在視してくれた皆さん。
そして、ごめんなさい。
ごめんなさい。
雄矢さん、
宮下さん、
涅隊長、
ネムさん、
卯ノ花隊長、
朽木隊長、
阿散井副隊長、
日番谷隊長、
乱菊さん、
・・・・・十四郎様。
私が断罪した、罪無い死神の皆さんや、虚達。
ありがとう。
藍染・・・隊長。
確かに路を跳躍させて下さったのは、教科書を与えて下さったのは、貴方でした。
愛と、愛の罰に気付かせて下さったのは、貴方でした。
ごめんなさい。
最期まで貴方の良い子になれなくてごめんなさい。
・・・もっと早くに私が藍ではなくて、愛を迎えていられたら、貴方を愛してあげられた?
貴方を少しでも、変えてあげられた?
運命を、愛してあげられた?
──────ギッ、ギッ・・・
大きな深呼吸を吐いたの頬に一筋の涙が走る。
もうすぐそこに、彼がいる。もうすぐ、罪と罰の連鎖に断罪の刃が下されるのだ。
「─────」
とうとう影が、屈んで。
やってくる衝撃には目を穏やかに伏せた。
大きく息を吐いて、心の中で「さようなら」を、呟いた。
「────────────」
白羽織の優しい肌触り。
初めての、体温のあるぎこちなくて力強い抱擁。
の瞳は空ろなまま、どこか予想していた驚愕に、多量の涙を零し続けた。
力の入らない手でぎゅっ、と死覇装を掴んで、痛い程の抱擁に、どうしようもない愛が溢れて、無声で慟哭した。
嗅ぎ慣れた男の香り。
憎しみの香りに、心からの愛を感じる。
温もりを感じた。
藍染の手には、刀など握られていなかった。
彼の手にはただ、壊れたの肢体と、小さく光る笄(こうがい)が握られていた。
断罪の朝焼け
そこに、怨嗟の声は最早、無い。
そこにはただ、不完全で幼い、真実の愛が、在った。
生 き 長 ら え る な ら も う 一 度 、 始 め か ら 。
ね ぇ 、 あ あ 、 今 心 か ら 、 真 愛 し て い ま す 。
藍 染 惣 右 介 隊 長 。
続
───────────────
断罪編最終話でした。お疲れ様です。軽く4話分・・・20000文字くらいの量でした。
ここまで。です。ここまでで、1年前から描きたかったダークシリアス&エログロが書けたかと思います。
といってもあまりグロくはないですね〜、まぁ「そういう」事実はあるんですけど、小説中には書かなかったのです。
それはまた後日、グロに飢えた頃くらいに番外編で・・・いきますよ・・・。
しかしそんな酷いことされながらもは一人を想う・・・どうせなら、穢れてしまえば楽になるのでしょうが、
そんなちゃんは無垢故に穢れられないのです。無垢の罪・・・やっとテーマが現れてきたようです。
ただ・・・アレですね。一人を想って来てたはずなのに、いつしか藍染が好きになってしまうんですね。
それに気付きたくもないので苦悩しましたが、もうそれを迎えたときは手遅れ。
迎えても藍染がそれに恐れを抱き、殺しにかかる。
藍染への愛を認めなければ海に苦悩し自殺に走るか、処刑(十三隊の)に怯える藍染を愛せば、藍染に殺される。
どっちみち彼女には死しか用意されていないというわけで。
死神を断罪という名の元に処してきた断罪者が、藍染に断罪される――――故に、速水編以降の話の題名は「断罪編」
(が断罪するんじゃなくて、断罪される)
テーマは「ラプンツェル覚醒(無垢の苦)」「有限」です。
しかし―――今回めっちゃんこ転機がありました。
まぁ・転機あっての「最終話」なのですが。笑
次回から「朔副虹(ついふくこう)編―藍染編―」すなわち藍染ルートが始まります!分岐です!やっと分岐地点まで
きました!わーーーーい!!
「朔副虹編」では「有限自覚」「存在の意思」がテーマです。
多分、いえ絶対「朔副虹編」は短いですが!ネタバレの関係上、あまり甘いお話は入れられないので。
おそらく3話くらいで終わりではないでしょうか。それからやっと「初雪草編」で・・・やっとネタバレです。
まだまだ伏線はれるかな・・・。
本編中の「裏切り者は神に愛されていた」というのは聖書の一つの事実です。
仮説として、裏切り者ユダは一番キリストに愛されていた弟子?という説があるのです。
それ聞いたとき、すっごく衝撃を覚えました。だってそうっぽい。
受難こそが愛ならば、ユダは確かに、一番愛されていたのではないでしょうか。
故に、――にかませました。
これからは切ないメインで、そして甘い、しかし痛すなエロスが飛び出てきます(何か嫌な表現)
それでは、また次回まで。
流星之軌跡 第二十七話「断罪。」
image song ♪「雲路の果て」Cocco(シングル「雲路の果て」・アルバム「Coccoベスト・裏ベスト・
未発表曲集」収録)