第二十九話「果てに咲く園」



お前が強く、望むのなら。



【流星之軌跡 第二十九話:果てに咲く園】



見上げるは、遥か遥か遠く蒼天。






いつか、そうあの日あの時も確かに、この空を眺めていた。
真夏の燃ゆるような近い蒼天。森羅万象が溢れる生気で、まるで彼女を連れていってしまうかのようで、
僅かに感じた胸の痛みをまだ、こんなにもまだ鮮やかに覚えている。
何故だろう。あの日あの時はチクリとしか痛まなかったのに、そして時が風化させてくれた筈の痛みが、
抉るように熱くて痛い。
あの時負った傷が今になって己の野望を指し示すなら、この雲一つ無い、晴れすぎた空を幾度、忘却の
うちに憎んできたことだろう――――――?




風が吹き渡れば、草と草の葉がさざめきあって、まるで今の愚かしい自分を笑うかのようだ。


ああ、あの日あの時――――・・・・・・忘れてなるものかと、どこか躍起になった幼い野望に、戻れ
ない漆黒を塗りつけた筈なのに。
そしてささやかな幸せの代償として、この園は踏み荒らされ不毛の地と化した筈なのに。


藍染は腰元までに伸びきった、色の抜けた土に根を張る草の海に身を任せながら、雲一つ無い鮮やかな
青空を見上げる。
もしも、失ったことに罪はないとしたら、無知の罰はを見つけた時、いや―――彼女を失った後か
らまさに、今なされているのではないか?


なら、星の海で彼女に出会ったことすら罪になるのか。
でも、出会わずにはいられなかった。花を咲かせたのは彼女で、色を知ってしまったことは、きっと
偶然などではない。
兼ねてからの野望に与えられるべき罰?そしてそれを与えているのは―――――。

・・・空座から与えられる罪に憎しみを覚え、仕方もなく瞳を閉じれば、瞼の裏に一筋の流れ星が落ち
る。
真昼の流れ星。そんな言葉が久方ぶりに藍染の脳裏を横切る。誰のために生きながらえている虚ろの彼
女を、そんな風に形容した時もあった。





―――――さわさわ・・・・







風が、生えることのない土地に芽生えた新たな生命を歌う。
藍染はその青と碧の中で、空座への反逆の意志と、消えることのなく、まさに忘却のうちに増幅されて
いた罪の罰をただ、独り身に刻んでいた。





「‥‥‥・・やーっと見つけた。はぁ、こないな辺鄙な所におりましたか」




広大な碧の海原に反射する日の光に瞳をしかめた時、後ろから聞き慣れた癖のある声が風に混じって聞
こえてきて、藍染は軽く後ろを振り替える。





「・・・・・ギンか」



またつい、と背を戻してしまうと、市丸は残念そうに声を荒げた。



「そないなガッカリせんといて下さいって。藍染隊長、十一番隊隊舎に向こうとると聞いて迎えに上が
りましたけど、何処にも居らへんかったんで・・・霊圧探ってたどり着けばこないな所・・・・・・」



そう市丸は小さく愚痴を口にしながら辺りを見回した。
広大すぎる碧の楽園、何の草かは解らないが太い枝は何かの木のようだからきっとただの雑草ではないの
だろう。
そしてそれに対照的な、まるで絵具の青色という青色をひっくり返したような天空。
長いことこの世界に住み着いてきたが、こんな場所は今まで知らなかった。



「へぇ・・・流魂街にも、こないな綺麗な場所があったんですねぇ」



仲間である藍染が昔から雄弁家ではないことは知っているが、あまりにも無口過ぎることに居心地の悪さを
覚えて周りを見回してみたことにきっかけはあったが、いや、確かに本当に綺麗な場所だ。
切り立った丘上にひっそりと、しかし雄大に広がる海原。そこの天は今にも掴めそうなほど近くて吸い込ま
れそうな美しさに溢れているが、流魂街を一望出来る丘上からの眺めも壮観なものがある。
だが、何かがおかしい。
市丸は根拠も無しに、何かを確信していた。



「――――綺麗?」



妙な確信が腑に落ちない。
すると、ふと藍染が遅れて自分の言葉に反応を示してきた。




「え?あ、・・・まぁ、そりゃ。眺め良いし、上昇してきた風が吹いて気持ちええし。地上は熱くて敵わへ
 んからなぁ・・・うーん、心地ええです」




「―――――愚かしいよ」




「え・・・・」





重々しく、また苦々しく藍染は毒づく。背を向けていることで残念ながら表情はうかがうことは出来なかっ
たが、それでも何かただならない否定の理由があると市丸は思う。そしてそこに、この不可解な確信の原因
もあるのだと。



「・・・何か、あったんですか?」


「‥‥‥‥‥」


「例の計画―――間近にして、その大事な打ち合わせすっぽかして隊長がこないな場所来るなんて、おかし
 いもんなぁ」



「‥‥‥‥‥」



「・・・・・・・」




大仰な市丸の声の後、二人の間に沈黙がはしる。
その間に上昇気流によって巻き上がった草々が宙に舞う。
藍染は目を細め、そして息を深く吐いて。







「流星の軌跡は、今でも鮮やかに不可避の咎を咲かせるということだよ、ギン――――――」







見上げるは、遥か遥か遠く蒼天。



目眩を覚える真昼の空を見上げて呟く藍染の顔は、何だか酷く寂しそうだった。
















日もとっぷりと暮れなずむ夕方。いつもより速くなった茜色の空を見上げながら、は久々に隊舎の
調理場に立っていた。
物憂げな瞳を、木格子の向こうの空に向けながら、ただぼぉっと思案していた。
何故藍染は私を殺さなかった?
殺されて当然のことを私はしてしまったし、薄く聞こえた心の声からも殺意と憎悪がはり裂くような唸
りを上げていたのを覚えている。
なのに、何故―――――?



の脳裏にまたあの時の抱擁が思い返される。
やがてまたやってくるあの時の五感――――まるで、数多の乙女が淡い恋愛に思い描くような、心から
の喜び。ため息ばかり漏れてしまう、熱く甘い抱擁。
雄で無理矢理突かれることよりも官能的な、背中に回される十の指の圧力。



「―――――――」




なんで、一体、どうして?
よみがえったあの感覚を燻らせ、気付いた時には思わずは溜め息をついてしまっていた。
しかし、同時に鼻腔を満たす、醤油の香りが彼女を夢の世界から現実へと引き戻した。



「‥あっ、」



鍋の中を見てみれば、先ほどまで香ばしい香りを立てていた魚の煮付けはぐつぐつと煮たってしまって
いた。
慌てて火を止めるが、時既に遅し―――――――さえ箸でそのどろどろとした醤油をつついて味見して
みれば、とたん口の中に広がる生臭さと、焦げの融解した苦味。




「う゛‥‥‥‥‥」



魚の生臭さを消すために生姜をきちんと入れた筈なのに、これではかえって逆効果だ。
そういえば、速水に雑炊を作った時もそうだが、自分はどうやら、普通の味覚とはずれているらしい。
その自分ですら不味いと判断したこの煮付け。
おそるおそる魚を解せば、やはり身を黒い醤油に染めた肉。


間違えなく不味い―――――いやむしろ危険だ。





しかし、作り直そうとしても、もうそろそろ藍染が戻ってくる時間になる。それに、調理場に立つ
にとっても今の状況はかなりのものがあった。昨晩使いすぎた腰や下半身がもうそろそろ限界に来ていたのだ。





さて、どうするか。





「・・・・・・・・」



一応皿に盛った魚の煮付け、滑子汁、そして白米。
遠くから見ても味噌をちゃんと入れた筈なのにやけに白い滑子汁、そして極めつけは闇色煮付け。
唯一うまくできたのは白米か。
しかし、それも何だか粥のようなのだが。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・」





は料理とにらめっこをした後、そそくさと藍染の好きなとびきりの酒を、戸棚から引き出すのだった。















「―――――お帰りなさいませ」



日が沈んだ夕方頃、藍染は戻ってきた。
夕飯を机上に乗せた後、すぐに藍染の霊圧を感じ取ったは、入り口の襖を開ける。



どんな顔をしているのか気になって伺うように見上げようとしたが、逆に先に、藍染に見つめられてしまった。
欠ける月に照らされた顔は、物憂げで、茶の瞳を見れば、どこか切ない光を宿してるようにさえ思える。
同時に交わっていた視線を反らす。不思議なものだ。
以前の彼も好きなのだが、今の彼も嫌いではない。むしろ――――――。




「・・・あ、・・・ゆっ、夕飯の用意をしておきました。言伝て通り」





心の何処からか、何だか熱いものが全身を駆け巡り、顔に染み渡り、耳まで真っ赤に染める。
以前あった嫌悪感の訪れは僅かながらまだあったけれど、それでもこの胸の震えは確かに己の喜びだと確信する。



「・・・が、作ったのか?」



「え・・・あ、はい・・。あ、味の保証は出来兼ねますが・・・・さすがに、作りおきのものでは・・・・・・」




ふ、との前を通りすぎ、藍染は白羽織を脱ぐ。も慌てて彼の後に続き、その羽織を受け取り、
皺にならないようにと着物掛けにかける。



そうして、ようやく二人の夕飯が始まる。






「――――――・・・・・・」




やっぱり、不味い。






先ほど味見した時はまだ少量だったから我慢が出来た。しかし、いざ料理一品となると不快の連続は
苦痛にさえなる。
醤油はもはや醤油の味をしていないし、魚の肉はつつくだけですぐ荷崩れる。付け合わせの野菜など、
とっくに闇色醤油に融解してしまっていた。
滑子汁など、味噌の味が薄すぎて何か生ぬるい石鹸水か何かを飲んでいるようだ。
泣き面に蜂か、やはり白米は粥状態で病人に食べさせるなら拷問にも等しい夕飯だった。




「・・・・



「はっ・・・はい・・」




夕飯を二、三口口にした藍染の言葉にびくつく。
ああ――――やっぱり、頑張らないで、きちんとした店の惣菜でも買ってくればよかった。
後悔には目をぎゅっと閉じた。





「―――――美味いな。・・・何処で覚えてきたんだ?」



「――――え」



「・・・酒が合いそうだ。酌をしてくれ」



「あ・・・・・・――――――・・・はい・・・」






藍染の口からもれた言葉に、こんどはぽかんと口を開けてしまう。
それもその筈で。
だって自分ほどの者ですら不味いと判断した代物。それを不味いと言わない、いやむしろ美味いとは―――――。
いや、自分の味覚がずれているなら、自分が不味いと判断したなら普通の死神は美味いのかもしれない、
あぁそれなら辻褄が合う――――などと変な納得をしながらも、は藍染に言われるがまま晩酌をする。


藍染の隣にちょこんと座り、膝立ちになりながら、藍染の好む冷酒を猪口に注ぐ。
これに不味いと言うわけがないから、は安心して藍染の酒を嚥下する様を見ることが出来た。




藍染の喉を酒が潤し、空になった白い猪口にまた酒を注ぐ。
自分が作ったどす黒い魚料理をつまむ箸と、既製品の美味い酒。
不完全な釣り合いなのに、釣り合っているそれらを優しい瞳では見送る。













「・・・はい」



「もう大丈夫なのか」




晩酌の間、虫の音だけが静寂を彩る空間で交わされる会話。久しぶりに感じる穏やかな時間の流れに、
は微睡むかのように答える。





「・・・はい・・・」




本当なら、引き裂かれた肢体はまだまだ治るわけがなくて。痛くて仕方がないのだが、それでもは嘘をつく。
果たして藍染が心配してくれるのかは謎だが、無理矢理の営みでさえ、今は何故か恋しかったから。



「・・・・・・・そうか」






かちゃん、と箸が置かれる。
微睡みから覚めて、皿を見てみれば完食を告げていた。




「片付けておいてくれ。その間に私は湯浴みをしてくるから――――きちんと、布団を用意して
 おくように」




出て行く藍染をぼぉっと見つめていると、それに気付いたのか、藍染は軽く唇を落として返す言葉の代わりとした。
やがて残されたの口腔には、酒の薫りが広がっていった。








「――――んっ・・・は、ぁ・・・」




あれから、は藍染に言われるがまま寝床の用意をした。
男の帰りを待ち、夕飯をともにし、明日への準備をするうちに男は一日の疲れを癒す――――断罪の、殺伐とした
夜とは違って確実に時がゆっくりと刻まれてゆく様は、まるで夫婦のようですらあって、何だか現実味がない。
愛を迎え入れたら殺されかけて、生きながらえたなら、今度は甘い甘い生活。
現実味がなさすぎて、ここは黄泉の国かと錯覚するがこの尸魂界以上に行ける死の向こう側はない。
間違えなく現実なのだ。





その現実で、は藍染の愛撫に悶えていた。



「・・どうした、。まだ何もしていない・・・そんなにも良かったかい?」



「・・・ぁっ、ちが・・・!はぁ、‥‥ただ――――」




あの後、湯浴みから戻って来た藍染の身の世話をして、少しばかり五番隊の話をして――――
寝室に運ばれたかと思えば、それはいままでの仕置きではなかった。
確かに意地悪なところは以前の彼とはかわりないが、何処と無く優しい。
それに、自分の身体も反応を示していた。



「――ただ・・・。藍染隊長に触れられる所全てから、一つ一つ、電流のような感覚が伝わってきて・・・・・・」





初めての感覚に、は顔を真っ赤にして答えるしかなかった。
幸い枕元に立つ淡い灯籠しか光源はないため、その色を見られることはないだろう。



「――――。・・・・・・・・・・」







何度も、何度もの名を囁いては、彼女の桜色の唇に接吻を落とす。
それだけなのに、の秘部は水気を帯びる――――。

次第に寝間着の白衣装の合わせ目から手が入り込み、まさぐるように乳房を揉みしだかれる。
服越しからの愛撫は、電撃のようでいて達っせない、もどかしさに変わる。



「・・・・はぁ・・・ぁ、ん‥‥‥ふぅう・・・」




唾液が無様に滑り落ちても気にしない。のし掛かる藍染のたくましい胸板にしがみつきながら、
胸を虐められ、唾液を交換しあう。
普段なら、これだけで感情のある愛液が分泌されることはなかった。いやむしろ、それは淫液というだけ
であって、この時初めては愛液を流したのかもしれない。



「―――ぁう・・・っ」



するりと、ようやく手が直に胸を掴む。皮膚と皮膚とがこすれあい、の息は嫌がおうもなく上がる。
同時に藍染の唇は首筋へと降りて、強くそこに赤い華を咲かす。
時折する藍染の吐息でさえ、肌を滑る度に身体が震えた。

しかし。


「・・・やぁ、・・・隊長・・・っ!」



「・・何だい?」



さっきから肝心な、胸の中心を愛してくれていない。
もどかしさに、の理性はどうにかなりそうだ。



「・・・・はあうっ、う・・!」


「・・・言わなきゃ、わからないな」




両の手がの乳房を虐めはじめる。しかしやはり、肝心な部分は愛してくれなくて―――――
意地悪なところは、本当に変わっていない。




「――――きゃあっ・・!」



ふと、藍染の指が中心をかすめて、の腰がびくついた。
一度は与えられて、しかしまた与えられていないと倍増する欲求本能――――の息は一層荒くなって。
そんなの乱れてゆく様を藍染は笑って眺めて、虐めていた。
やはり、咎を感じていても、いつまで経っても――――咎を塗り重ねてしまうと、どこか諦観しながらも、
それでも止まらなかった。



「・・・・‥んっ」



口にするのを躊躇ったは藍染の頭を支え、中心へ誘った。すると、ようやく藍染はそこを舌で潰すように啄み、
舐め、しゃぶり、そして時折痛い程噛んで――――藍染を胸に抱え込んだは、ようやく与えられた快感に扇情
的な声を荒らげてしまう。



「あ、あ、あぁっ、ぁあッ!アァ‥‥だ、‥ぁんッ、駄目ぇッ‥‥‥!」


「促したのは誰だい?」


「・・・うっ、ぁ・・・ッはぅ―――」


「ほら、もうこんなに濡らして」




藍染はくすりと残酷な微笑を浮かべて、の茂みへと指を伸ばす。途端指に絡み付く透明な粘液―――
まだ、秘部への愛撫もされていないのに、そこはもうぐっしょりと濡れていた。



「まだ何もしていないよ。実際、お前は昨日までまだここまで蕩けていなかった筈だが・・・どうしたものかな」


「・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」





愛撫が止み、はもどかしさを押さえて藍染の言葉を聞き取る。
心の声こそ霞んでいてわからないが、間違えなく彼も喜んでいた。
その茶の瞳に今までのような狂気の色は混じっていない。今のそれはまるで澄んだ少年のよう。



「・・・隊、長‥‥‥‥」



色に駆られでもしたのか、ふと彼の温もりに渇望して、今まで藍染の胸に置いていた手を彼の首に絡ませて
自ら唇をねだる。
それといったのも、先の妙な確信があったからなのだけれど。
やはり藍染は拒みもせず、貪ってくれた。
荒々しい舌使いに溺れる、上がる声など耳に入らないほど、彼の愛に翻弄されてゆく。



「・は・・んんっ‥‥、んッ・・・――――!?」




そうして微睡んでいるうちに、ふわりと浮く感覚の後、ズンとした衝撃がの脳に響く―――急に増した
其処の質量、そして癒えない傷を裂いてめり込んでくる熱く猛った肉棒。


痛くて痛くて、堪らない。




「―――あ゛ぁッ!!いっ‥‥いやぁあッ!!ィ、痛いっ、ぬ、抜いてくださっ・・・おねがっ、ァッ、ああっ!!」



態度が緩くなったとはいえ、こういう意地悪なところはちっとも治ってはいないのだろうか。
いくらが顔を苦痛に歪めて懇願しても、藍染は無視をしてどんどん奥へ奥へと割って入ってくる。
次第にの額には脂汗が滲み出すが、彼は抜き差しを止めない。



「ッアァア!!ぬ、ぬいてぇ・・!!おねが・・・しますッ・!!ゆるして・・ッ許してくださッ‥‥
 ンァッ・・・!はぁうッ・・・!!」




目から火花が散るような痛みを覚える。
は必死に泣き叫びながら藍染の瞳に懇願の眼差しを送る。


と―――――。







―――た、いちょう・・・?








無表情ではない。
彼は、いつものような残忍な笑みや氷のような無表情を浮かべてはいなかった。
激痛の狭間では確かに見たのだ、そう―――――



目の前の藍染惣右介は、切ない苦渋を瞳に滲ませていたのだ。



「―――――・・ぁああッ」



しかし、すぐに分からなくなってしまったけれど。
けれど、確かに今一瞬―――したのだ。
あまりにも覇者らしからぬ、無骨な表情を。




「余計な事は・・・ッ詮索するな」


「痛ッ、お願いしますッ、抜いて――――抜いてぇッ!」


「黙れ。ただ今は―――大人しく抱かれていろ。案ずるな、直ぐに痛みは快楽に変わるから・・・」


「ぁああァ゛・・ッァ゛あ゛――――!!!」





涙を流して快感を待つ。
早く本能さえ破壊されて、自然の摂理から外れてしまうよう。そうすればきっとこの痛みも快感へと変わるから。
今までだってそうだった―――いくら身体を刀で傷つけられても、次第にえもいえない気持ち良さが脊髄を舐めた。
初めて菊座に異物を挿入されて散々に弄ばれた時だって、口で彼を奉仕する度に濡れて受け入れる用を持ち合わせ
ていないそこでさえ本物の熱を渇望した。

ただ、今は違う。
いや確かに、痛みは快感に変わってきてはいるのだが、心が半分だけ満たされていないような、そこだけぽっかり
と穴があいてしまっていて、それでも愛に心は中途半端な暖かみを覚えているような―――そんな感覚。

確か、以前藍染の見ている目の前で幾人もの男に弄ばれた時があったが、その時と似たような感覚だ。
確かに藍染とはまた違う、様々な技を持った男に快感は感じて、自分も喘えいで腰も揺れているのだが、それでも
藍染の瞳を見るだけで絶望の暗闇に突き落とされるような、今にでも藍染にすがり付いて涙したいような感覚に見
舞われたのだ。
だからこそ、最後の最後に与えられる藍染の熱を待ち望み、それまでどんなに辛くても意識は繋がれ、いよいよ抱
かれた瞬間意識が飛んだ―――そんな、虚しい渇望の追憶。


それに似ている。




「あっ・・・隊長ッ!!」


「ここか・・・。本当に此処が好きだね、は・・・」



追憶もままならない内に、藍染は其処にたどりつく。
ざらつく部分――快感の核を緩く突かれて、は身を硬くした。



「―――そ、そこは・・駄目・・・です・・・」



「何言ってるんだい。此処は以前から攻めすぎて傷だらけになっている所だろう?・・・狂ったお前は、
 その傷すら快楽に変換する。だから、欲しいんだろう?・・・?」


「う・・・・・・」


恥じに伏せた顔をぐい、と片手で持ち上げられる。深くまで入れるようと藍染の肩にまで持ち上げられた白く滑らかな
の太股に、塗りつけられた藍染の精液との淫液がまざりあった流れがつと、落ちた。




「ほ、し・・・欲しい・・・です‥‥」



「ほら、そうだろう。‥‥の性感帯などとうに知り尽くしているからな。・・・お前が好きなのは・・・」




藍染の唇が降りてきて、与えられる吐き気すらもよおす快感にびくりとは肩を震わせた。

自分のことは、自分が良くわかっている―――自分が弱いのは―――の意識が胸と、腹と、核に集中する。



「・・・此処と、」


「―――――っ‥‥‥」


「此処・・丁度子宮の脇辺りの腹と・・・」




藍染は話しかけるように、低い声を出しながら、また確かめるように、舌先での弱い所を次々と的確
に当てていく。
残るは、核だけ―――ここまで当てられたら、どうしてこんなにも藍染は自分のことをわかっているのか
と疑問に思ってしまう。


「あとは――――此処」



「――――んんんッ・・!!」


は当てられた悔しさに、せめて声だけは出すまいと小指を噛んで遣り過ごそうとするが、藍染が手を
払いのける。



「噛むな。確かにお前の苦しみ悶える声は官脳的だが・・・声を出せば良い。まぁ、一番好きな所を当てら
 れたら・・・出さずにはいられないだろうが」



え―――――。



の思考が止まる。
今まで数多の男に抱かれてきて、もうとうに自分の感帯は知り尽くしているはずなのに、そしてそれらは完全に
藍染に当てられてしまったのに。
なのに、まだあると―――しかも一番好きな所と。


繋がっていた熱を抜き、半信半疑なの太股を、藍染の手が片手で支える。
そして―――ゆっくりと、混合した液の味を味わうかのように舌で舐め出す―――――。




「―――ン!ぁ!アァッ!!」




血が滲んでいた小指が唇から外れて宙に舞った――――舌が這う感覚に、は身体全体で痙攣をおこし始めた。



「いやぁあっ!!あっ、ぜっ、・・!んぁ、あ!やっ!ァッァァ!!そこ・・おかしっ、ぁあっ!
 逝ッ、くッ!!死・・んじゃッ・・・ぁあ、ぁ!!ゃあぁッ!!」



しかし藍染は止めずに、太股と足の付け根まで丹念になめあげて、秘部にしゃぶりつく。
奥まで達することのない舌の愛撫。しかし、特定の襞の箇所をつつかれ虐められれば、愛液は洪水のように流れ落ちる。



自分さえ知り得ない快感点―――どうしようもなく、我を忘れて大声ではしたなく喘えぐの脚の間で、
藍染は確信を再確認した。



「あぁぁあああーッッ!!!」


吹き上げた透明な潮さえ慈しみ嚥下して、藍染は愛おしそうに――意識を手放したを見つめた。



涙と汗にまみれたの肢体は、欠け逝く月に照らされて妖艶というよりかは何よりも神々しく輝いている。
の身体をひしと掻き抱き、泣きはらした瞳に藍染は静かに唇を落とす。



「やはり・・・か」



無防備に眠る少女の面影を残した女の顔。妖しくまとわりつく黒髪を横に払いすいて、
先ほどから現れていた霊圧に語りかけた。



「・・・悪趣味だな、ギン」



「あれれ、バレてましたか。はは、そりゃスンマセン。にしても、前は良い趣味だってちゃん抱かせてくれはった
 のに―――なんや、つれへんなぁ」



縁側からひょこりと姿を表したのは市丸ギン。
つい先ほど―――に熱を与えた辺りらへんから、大人しく藍染の“用”が終わるのを待っていたのだ。


藍染はそれに気付いていた。だからこそ、気に咎めて無表情を吐く。


「藍染隊長の教育のおかげか、随分、ヨかったですよ、彼女。普段清楚で、高潔な印象からか落差あって――えっらい
 憎い藍染隊長に抱いてください何度も懇願して、でもボク達に縛られても、吊るされても、隠されても、殴られても、
 千切られてもよがりながら嫌々言う姿がたまりませんでしたわ。流石――――」


「――――ギン」


「! ―――はっ・・・はい?」



みしりと畳が一畳一畳犇めき合って鈍い警告音を立てた。
藍染の霊圧が一気に上がったのだ―――押し潰すような、捻り潰すかのような凄みのある霊圧に市丸は、
勢い付かせるためとはいえ少し言い過ぎたかと舌打ちをしながら、大人しく黙った。


「・・・今と過去では、状況が違うんだ。昼に、話しただろう?」


「・・・・・・はい」



を愛すことが、その目的が何であれ――――消えることのない咎の塗り重ねだと。良いか?」


「・・・・・・」








藍染は、の閉じられた瞳に向かってただ―――厳かに宣言した。










は、必ず私が殺す」





「・・・・・・!」




市丸の真紅の瞳が衝撃に見開いた―――藍染の宣言は、彼の記憶が真実で、今まで起こってきた事象も真実ならば、
あまりにも惨い裁決と、罰の呪縛、総ての意味合いを含んでいたからだ。



「そないなこと・・・。ついに・・・」



あまりにも驚きすぎて、市丸は言葉につまり、思わず後ずさる。
それもその筈だ。咎を塗り重ねる藍染とならば、その選択は辛すぎる選択に他ならないではないか。



「・・・わかっているさ」


「・・・・・・」



「私達はあまりにも長い年月、弄ばれてきた。それに抗おうとすれば―――この有り様だろう。だから―――」



「・・・・・・」



「今度こそ、終焉りにするんだ―――――他の誰でもない、この、私の手で」



「いや・・そんな・・・・でも、それやったらちゃんは―――」



「はは・・・そう心配そうな顔をするな。はそれを望んでいる。‥‥全ては、覚悟の上だよ」



市丸の同情に藍染は、慈しむようにの黒髪に指を通しながら、強く、強く――――くぐもった単調な声で
市丸に返すのだった。





の愛するものなど総て破壊してやる――――確かに今のにはそれの阻止も願いだが、間違えなくそれが、
 の願いなのだから――――――」








市丸の瞳が、月夜に照らされて逆光に輝く。
せつなげな光を宿した後――――藍染の哀しい決意をしかと胸に刻み、焼き付けて、





「じゃあ、日番谷隊長と雛森ちゃんのことは、ボクが・・・・・・」



「あぁ、それは任せたよ。 頼んだ、ギン」





「―――えぇ」














運命の皮肉をいくら恨んだことだろう?
















「藍染隊長。ちゃんの代わりに・・・絶対に彼らを仕留めて上がります」












そしてその度に、この天を回してやろうと思っただろう?












「だから、隊長も」











自らの運命、そして










「死を――――」




彼らの運命。





ちゃんに立派な死を――――与えてやって下さい」














「――――――わかった。 肝に命じよう」









大きすぎる歯がかけた運命の歯車に嫌気がさして、遠い遠い空を恨んで。
その果てにいつも睨むのは、こんな漆黒の空ばかりだ。
顔がないくせして、いつだって自分達を嘲笑っているかのようだ。





は、必ず私が殺す』





藍染の応えをしかと刻みつけて、廊下へと出て、かけ逝く月と漆黒の空をひとしきり睨んだ後――――
市丸は灯火さえない闇が渦巻く道の先を毅然と見据えながら歩いた。


胸にはいつかの記憶に掻き消した『彼女』の丸い瞳、零れる涙を揺らして。そして哀しき三輪白花への鎮魂を燃やして―――――。






















「―――ん・・・。 ・・・、藍染・・・隊長?」


「起きたのか、。 ・・・まだ始業まで二刻ある。それまで・・・お休み」


「・・・ん、・・・・は‥、藍染隊長・‥」



「‥‥‥お休み、






「―――はい・・・・・・・」



















お前が望むなら





壊れるほどの抱擁を






お前が望むなら







消えぬ咎の連鎖を断ち切ろう







その果てに、たとえ別れが来ようとも








譬え  違えた道だろうと、









この茹だる真夏に初雪が降るならば










私は、












お前の愛するもの、愛する世界、愛する万象。











悉くそれらを完全に、殺そう。















――――――














私は、お前を必ずや、この手で――――













魂ごと拐ってやるから。

















※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



29話。
大分藍染の態度が変わってきていますねー。うん、気持ちわr(こら)いえいえ、これからは切なく切なくしていきます
からね!ええw
あとは−−−ようやくギンも本格登場というか。いえでもギンは浮竹ルートのほうで沢山(?)出てきますが…まぁ
藍染ルートでもそれなりに出てきます。
段々霞む藍染の心の声、しかし感情の嵐だけの声、無限への覚醒、そして関係が完全に引き離されてしまった浮竹と
−−−。これからどうなるのか、ご期待いただけると嬉しいです。













BGM  ♪椿屋四重奏「道づれ」「導火線」(アルバム「深紅なる肖像」収録)
3:03 2010/12/28 加筆修正