第四十六話「藍染惣右介は何故、白鷺を殺したのか」





惣右介は言った。




自分を助けることは禁忌の野望を手助けすることであり、それは即ち世界滅亡への幇助となる。
それなのに、助けていいのか・・・・・・。




この言葉を聴いた瞬間、私は正直、妙な違和感を覚えた。




確かに、虚というものは塔を破壊された時や、この庭に初めて出た時、そして先ほども・・・何度も私を手にかけようとしてきたし、
周囲の魂魄も無差別に喰らい尽くす脅威としか呼べない存在だ。まやかしの無くなった目で見た禁書や惣右介の研究文も
実験書にも、たがえることなく書いてあった―――
『虚と死神、死神と虚の境界を突破する』という研究。
種族としての境界を打ち破り、己の能力限界を突破するというその研究。
惣右介は限界を超えた力を手に入れて、そして・・・理由は分からないが、父上や母上、ひいては我ら一族を皆殺しにしようと
している。

だが、この一連の流れは、私にとってはただ彼が必死に生きようとしているだけにしか思えなかった。
無限とも呼べる時間をあの塔で過ごしてきて、そして彼に拾われて―――ようやく私は、何のために人は生きるのか、無数に
散らばるうちの一つの解を見出したと思う。



何のために生きるのか。
それは屁理屈かもしれないが・・・・・・それは『生きるため』だと、そういう自分なりの解をひとつ、見つけた。



この『生きること』の意味は素直に嚥下できる簡便なそれではない。もし簡便なそれでこの言葉を鵜呑みにすれば、その目的は
必ず最後に「死」が待つ生命体は決して達成できない。そのような皮肉的な哲学を述べようとしているわけじゃあない。



私の意図する『生きる』とは、即ち『存在証明』―――己の証明のためだ。



魂魄は存在し、記憶を持ち、自我を持つ。自我が世界に所属することの証明は、相対的にしか為されない。所属とは二つ以上の
個が同じ集合に属して初めて生まれるもの。
そうした小さな集合の塊が、社会というものをつくり、やがて世界となる。全ての存在は個であるが故に全体を求める。しかしその
行為は人が二人以上集まればそこに自我相違を生じさせ、正しい義を求めさせてしまう。
だが、悲しいかな。義とは己の信念であり、自我から輩出されるものであるはず。それなのにか弱き人間は、義は個々の中にあって
いいものであるはずなのに誰かに認めてもらって初めて義は誕生すると思っているものなのだ。原義では義を語る者、説く者に義は
存在しないものであるはずなのに。
それなのに生誕を祝福された義は正義に、そして生誕を祝福されなかった義は、やがて悪と呼ばれるのだ。
社会は正義を好み、その正義はついに秩序を作る。幾千と存在する個―――無論、自我をもった個―――を束ねるには規律が
なければ集団として正常に働けないからだ。
人間が生来抱えている自我を持つ個という性質故に、集団をつくり、正義を、規律を作るのだ。


だが、個は元来の個であることに私はなんら悪も感じない。
だから『存在証明』―――つまり個が個らしく『生きること』に正しいも、悪いもないと思う。
父上や母上、そして王家が私にしてきた仕打ちは、酷いことだろうか。・・・こんなことを惣右介に漏らせばまた親への愛情を信じている、
裏切られたんだ君は、などと笑われるのが落ちだろうが・・・私はあくまでも、何の視点に立つこともなく、酷いこととは思えない。
父上は個として生き、母上を愛した。母上に父上への愛情があったのかなかったのかは分からないが、それでも彼女もまた個として
生きたかっただけだ。そこに第三者干渉での汚い野望がたとえ、隠れていたとしても、それでも悪いとは思わない。父上も、母上も、
ただ個として生きたかっただけだ。



―――惣右介、こう言ったらお前は絶対に怒るのだろうが・・・私にはお前も、父上たちとなんら変わらない存在として映っているのだ。



惣右介のあの言葉はまるで、自分は悪だとでも言おうとしているかのようで・・・故に、違和感を覚えたんだ。


虚と死神の融合、もしくはそれの逆がそんなにも悪いことなのか。
強く、莫大な力を持とうと足掻こうとすることは、そんなにも悪いことなのか。
王族を皆殺しにして、その玉座に君臨することが、そんなにも悪いことなのか。





自然摂理を超越した先で得る幸福は、そんなにも悪いことなのか。

全ては、社会の規律、即ち正義に裏打ちされた悪ではないのか。





皆、皆、ただ己の自我、個の存在証明をしたがって生きているだけにすぎない。


正義を作り出し、もしくは作られし明るい正義に安寧を感じ身を委ねて己の個を存在証明とする者と、
藍染惣右介が目指している個の存在証明との間に、一体どのような差異があるというのだろう。


背理法的に論ずれば、では、藍染惣右介がしようとした存在証明で個を奪われた存在がこの世界の全ての存在だという否定命題を
仮定としよう。
確かに、彼のしてきたことは改造虚を創成することもあっただろうから、個を奪われた存在も多数いるだろう。これから先を想像するのは
ある意味規約違反になるかもしれないが今は多めに目を瞑るとして―――この先、たとえ王座に君臨して、彼以外全ての存在を消し
去ったとしても。
それでも、その仮定は間違っている。

なぜなら―――私は、たとえ彼の粛清を心の臓に受けようとも、個を失わないからだ。

私は両親、そして彼の道具。道具としてこの世界に存在を赦されている存在だ。
私が死ぬ時とは――――――藍染惣右介の道具としてその存在を全うした時だ。

白鷺が天空に舞って、私を見つけようとしていた時―――私は、確かに「嫌だ」と思った。
その時、私は私が、藍染惣右介という男の道具として存在していたい、生きていたいと・・・いつの間にか思っていたことに気がついたのだ。
無論、両親の道具としても生きたいのはある。だが、今は・・・今だけは、前者の道具として生きたいという思いが勝っていたのだ。
でなかったら、白鷺を目にした時に焦燥に駆られることなどなかったはず。


私は、彼の道具として生きたい。個として、自我がそう望む。それこそが現状での、私の存在証明。
だから、私は惣右介のせいで命を終えても個を失わない。よって・・・この否定命題は誤りだ。
すなわち導かれた結論は「藍染惣右介がしようとした存在証明で個を奪われた存在は、この世界の全てではない」。
私が・・・という名の女が藍染惣右介の道具として生きているあいだは、世界の義と、藍染惣右介の義に良いも悪いもないのだ。








だから、どうか。


自嘲するような笑みを見せないで。


いつものように、冷酷な微笑を繕っていて。


白鷺を斬り落としたお前の揺らぎは、私にその幸せな使命を確信させてくれたのだから。








【流星之軌跡:第四十六話「藍染惣右介は何故、白鷺を殺したのか」】




まがまがしいまでに光る月が暗闇を暴いて、と藍染の表情を容赦なく浮き上がらせる。王家が放った偵察用の白鷺が
の居場所を見つけたと知った二人は、様々な思惑に駆られていて、万葉の色を滲ませていた。藍染の意外な行動に、
心のどこかで驚きながらも、ささやかに喜んで、しかし両親の道具としての使命を併せ持つは複雑に笑うしかなかった。
何故藍染は白鷺を殺したのか。―――そこに、どうしても期待が消えない。自惚れでもいいから、信じてみたかった。藍染の
唯の道具として生きようと決意していたはずなのに。それなのに、死の刃が下された対象を意識すればするほど・・・道具以外
の何かとして、藍染に認めてもらいたいと願ってしまう自分が確かに生まれていた。
だが、彼は誰よりも冷静で、狡猾で、怜悧な死神。
期待すればそれこそ、いつか、絶対に裏切られる。



甘い期待にぐらつくは、ただただ無言で苦笑するしかなかった。



が。



――――――刹那、相対している藍染の背後からまた巨大な影が立ち上って目を大きく見開く。




「っ!」



が惣右介、と名を叫ぶ前に、藍染は反射で背後から迫った一撃をかわし、ついでに攻撃範囲にいたを片腕に
抱えて間合いを空けた。
耳を塞ぎたくなるような轟音の後、砂埃が月光に照らされてきらきらと舞い散る。それがおさまってくれば、今まで自分たち
がいた場所には大きな穴が開いていて、攻撃の破壊力を物語っていた。
一体何だったのか。は藍染の腕に護られながら、今の攻撃を放ったであろう者がいる方向を注視する。すると、
砂埃からぬっと姿を現したのは先ほど藍染が一線した虚で。虚というものは強い力を持つものほど再生能力が強いと
どこかの文献で読んだ気がしたが、その理論によればこの体躯の良さからもいって相当の虚なのだろう。確かに胸は
ばっくりと口をあけているが、そこから血はあまり出ていない。というよりかはむしろ、肉がむきだしになっていて、その傷口の
ところだけ皮膚が破けているかのようだ。
斬られたのは痛みで目がかすんでいたとはいえこの目でしっかりと見たのだから、そこまで修復したということなのだろう。
良く見れば虚の異形の仮面の額には、まるで勲章とも呼称できそうな大きな十字傷が刻んであって、思わずの身体は、
得体の知れない化け物に対して固まった。


だが一方、が身構える虚を藍染は一瞥冷笑する。



「改造虚実験初期生産物とはいえ何十年も生き残ってきただけあって、なかなかのしぶとさだね」


「・・・・・・ウ、ウゥ、・・・グウグウウウッ・・・!」


身を硬くしながらは悠然と刀を左手で構える藍染と、うなり声を上げる虚の様子を交互に見て様子を伺っていると、ふと―――
――――――耳に、何か人間の声のような音が聞こえてきた気がした。



「私が諜報用にと飲食型にしたのが功を奏して、喰らった死神の力をも血肉としたのかい?」



この声は一体どこからだと身をよじれば、藍染の意識は虚に集中しているのか、それとも先程の怪我が原因か―――拘束から少し
だけ逃れることが出来て。
藍染は眼鏡の奥の双眸を微動だにしないまま深遠なる闇を宿し、しかし薄い唇を不適に笑ませた。
そのなかで風に混じって、今にも消え入りそうな声の、とある規則性に気がつきはハッと我に返る。




このか細い声は――――――あの虚がうめく声に必ず乗って来ている。




「そのまま私に傅いていれば、生き永らえられたものを」




藍染の声を出来るだけ意識しないようにして、ただ虚の声に意識を、全神経を集中させて耳を済ませた。
すると、やがてはきとは聞こえない、雑音混じりだった声も明瞭になってきて―――同時には驚愕する。
地獄の底から聞こえてきそうなおどろおどろしい声には、確かに―――



人の声が、混じっていたのだ。



(さ・・・たい、・・・い・・・。 く、・・・し・・・い・・・・・・・・!)



まるでこの世のありとあらゆる渇望、苦渋、悲しみを複雑に織り交ぜたような悲壮な、今にも泣き出しそうな声で、
こんなにも切ない感情があるものなのかと、身を切るような悲哀に心が溢れて、いっぱいになる。
だがその声に彼は全く気がついていないのか―――無情にも、虚に光る切っ先を向けて、





(駄目だ・・・! まだ、死ぬわけには・・・まだ・・・果たしてないんだ! ・・・娘との約束を・・・!!)





「だが――――――次で焉(しま)いだ」





(やめろ!! やめてくれ!! 殺さないでくれ・・・!! まだ俺はここにいる! 戦えるんだ・・・・・・!!)





苦悶の絶叫は地獄のうめき声と重なって、こんなにも耳を侵してくる。心まで直接鷲づかみにされているかのような
驚異の波長に、耳を塞ぎたくなる。
だが藍染には聞こえていない。死の間際の咆哮など全く耳障りだとでも言うように瞳は不快に細められ、終に刃を寸分
狂うことなく虚の心臓に狙いを定めた――――――。




完全に拘束を破って、脚は勝手に動いた。




「―――駄目だッ、惣右介!!」


「っ・・!?」




咄嗟に藍染と虚の間に立ちふさがったによってその刃は振り下ろされる機会を逸してしまう。




「一体どういうつもりだ。 気でも違ったか―――・・・・・・!」




そう問う藍染の瞳は決してつりあがることはなく、むしろ惨憺黒炎を燻ぶらせていてしじまに激昂が見て取れる。声は明らかな平坦で
なおのことそれを確信させるが必死に生きようとしている何者かの声を耳にしたは短く「黙っていてくれ」と制した。
藍染としても、こうもが目標を覆っていては彼女ごと斬り殺してしまう可能性が捨てきれなく、一撃を処することが出来ない。
しかしだからといって王族への唯一の足がかりである彼女を、虚によって奪われることは何が何でも阻止せねばならない。藍染は
内心で舌打ちをしながら、最悪の状況を考えていつでも縛道が放てるように霊圧を集中させておく。
それ以上、虚の間合いに踏み込んでは危険だ。藍染はおずおずとしながらも一歩一歩、虚との間合いを詰めてゆくの様子に
最早猜疑の念をもって様子を伺う。

だが、彼女の口から語られたことはあまりにも常軌を逸していて、今度は藍染が言葉を失う番になってしまった。


「違う! この虚には確かに、人としての意識が在るのだ・・・!」


確かに知能をつけるまでに成熟した虚は人間の言語を使うこともある。しかし、このように老朽化した出来損ないの―――しかも
今は錯乱している―――虚が言葉を使えることは無い。現に、今聞こえてくるのは最初から最後までうめき声しかない。しかしそんな
藍染の疑問を気にすることも無く、何かに取り付かれたのかのように、だがしかし学習した恐怖から少し身構えながら、はゆっくり
距離を縮めてゆく。一方先程まで興奮状態にあった虚も、彼女の動向を伺うかのようにぴたりと動きを止めていた。ただ、人一人を
縦に飲み込めるくらいの裂口から、苦しみに噴く泡を涎と共に垂れ流しながら、ぐるぐると声にならない声を上げて。
その様子に安心したのか、段々とは歩の速度を上げてゆき、ついに目の前までやってきた。

はあらためて脅威でしかないその仮面を纏った巨体を見上げて、身体全体の筋肉に力が入るのが分かる。何故ならこの者は大きな
牙や鋭い爪、いや、それ以前にこの大きな掌ですぐにでも自分の命を終わらせることが出来るのだから。そう、先刻藍染を助けに入った
時のように―――恐怖の一撃が蘇ってきて一気に緊張は高まった。戦の訓練など教わったことなどない、この無抵抗にして無防備な肢体は
攻撃をまともに喰らえば回復の暇さえなく雲散霧消するだろう。
その瞬間に存在証明は果たせなくなり、消える。それだけは避けねばならない。そう頭では何よりもわかっていた。わかっていたが、しかしあの
憐憫な声を聞いて、妙な確信があったのだ。
この虚は、この虚には―――まだ心が、個が存在しているのだ。



「・・・・・・お前・・・。 ・・・苦しい、のか?」



そう問うても無論、何の返事も返ってこない。ただ威嚇のような唸り声を、その太い喉の奥で鳴らしているだけで。
その様子にいくばくか安心して、そっと、先程まで自分の命をかき消そうとした腕に触れる。藍染は途端声を上げそうになるが、
意に反して虚は何の反応もしなかった。むしろ緊張して張っていた筋肉からゆるゆると力が抜けてゆくようで、目を丸くしてしまう。



「先程、何か言っていたな。 ・・・・・・よかったら、聞かせてくれないか」



触れた箇所からどうどうと、虚の固い檻に閉じ込められている生きた人の心がじわり溢れ出してくるようで、もっとそれを聞かせて
くれといわんばかりに今度は両手を胴体、ちょうど腹の辺りにそっとあてて、耳を当てる。あくまでも硝子細工を扱うかのような
やわらかさで触れながら、この虚のなかに流れる血液の音に耳を澄ませる。心臓がどくんと一仕事するたびに、太い血管には
大量の血液が流れ込んできて、びゅうびゅうと音を鳴らしていて。
やがて呼吸も落ち着き、警戒態勢を完全に解いた虚。息遣いと拍動の音以外には何も聞こえなくなって、規則正しく優しい
その音に、はついに安心して瞼を伏せた。







だが――――――。








「なあ、聞かせてくれ。 ・・・確か―――・・・・・・娘がどうだとか・・・・・・」


「―――!! ・・ッグ、ウ・・ォォ・・・! オ、オオアアアアア゛ア゛ア――――――!!」







そう口にした瞬間、今まで落ち着いていた筈の虚は、激しく狼狽しだして――――――苦しみもがく。
一体何が起こったのかと無防備なに、乱雑に空を掻いた虚の鋭利な爪が迫った。





























**********


*四十六話でした。中央四十六室もびっくりな46話です。はいっ、意味不明ですね。すみません。笑


*生きる理由。これはあまねく世界の人々にとっての永遠の課題だと思います。生きる理由なんてそれこそ
 人それぞれに見つけるものだと思います。なのでは今のところ「生きる(個として存在証明をする)こと
 こそが、ヒトが生きる理由だ」と認識しています。
 ヒトが生きるのには善も悪も無い。故に、にとって藍染は悪人でもなんでもないんですね。

 藍染≠悪人という観点に立つには無垢でないとたどり着けないと思うんですよ。すこしでも何かの社会に
 属している人間には、正義というものさしが必ずあると思います。そのものさしはかなり一般化されていて、
 それらは種種に違うけれど、少なくとも藍染のしていることは悪とみなすでしょう。
 実際世界、藍染のやっていることが「悪くない」と大衆の前で言える人間は現実世界でもいないはずです。 
 だからこその「悪役」ですからね。笑
 この思想は(私は哲学科の者でもなんでもなく、ただの理論物理屋なのでえらいことはいえないのですが)
 コミュニタリアニズムとも関係してくると思います。少なからず人間は、生まれた社会に思考を育てられるし、
 影響も受ける。だからといってはリバタリアニズムを掲げているわけでもないのですが。笑
 他人の権利も奪うことになるとしても―――それが個の存在証明なら、仕方なく享受するしかないのでは
 ないか。そういう行動理念でもって動いています。
 
 しかし本当に自体は社会の影響を受けていない本当の無垢といえるのか?(だってにはきちんと
 両親がいるし、確かに王族として育てられてきた。生まれた時から完全に周囲に人の存在が無かったわけで
 はないし)

 『無垢しか藍染の本当の味方になることは出来ない』―――そう先述しました。
 は藍染の完全味方なのでこの点に関しては「完全に無垢」ということになります。ですが、社会の影響を
 受けているではないか。ここに少しのパラドックスがあり、それが実は伏線になっていたりします。
 かなりひねくれていますが。
 
 藍染ルートを執筆するにあたって、に代わる主人公を考えるわけですが、その時にこの考えにたどり
 着きました。繰り返しになりますがという純粋無垢・己の世界が全く無い存在でないと恐らく藍染に
 本当の意味で味方することができないと思うんです。

 妄信的な愛情はきっと彼の畏れには耐えられない。無論、悪にあこがれる人間を主人公にしてもよかった
 のですが、私的にそれはその理由により却下しました。
 欲張りな性格なのもあるんですが―――やっぱり、味方サイド、敵サイド、双方の綺麗なところ、汚いところ。
 全てのあらゆる事情を受け入れて、そこでどう主人公は納得して動くのか・・・そういうのが個人的に一番
 すっきりしていて好きなので、最初から悪役主人公というのは考えていませんでした。

 藍染の目指す道に入れるというのは、
 
 無限に入れるのは確かに、憧れ(雛森)からでも、憎しみ()からではない。
 無限に入れるのは、途方も無い無垢()からだ。
 
 憧れも憎しみも、それは全て道徳という社会のものさしから生まれる感情だと思うんです。ものさしがある限り、
 藍染のやっていることに納得して賛成は出来ないのではないでしょうか。
 そのものさしが無い人間であれば、逆に賛成すら出来るのでは。そう思って思いついたのがです。


 ただ、今回もありましたように、はこれからどんどん新たな感情を、藍染と生活を共にすることによって
 獲得してゆきます。今回のものさし理論が正しいのだとすれば・・・はこのままの無垢キャラでいくことは
 ないのだと察しがつくと思います。
 無垢はもちろん最初は無垢だけれども、学習することによって藍染の世界という社会ではぐくまれるものさし
 が出来る。
 ものさしが出来る前までは善悪がないので怒りもしない。故に、両親に対する憎しみはなかった。
 だけれどもものさしができた後では一体どうなるのか。
 苦渋から産まれた怒りは、藍染にはそうでしたが、今度はにとっても同じようになるのでは。


 感情描写が難しいところですが、ここは肝心なところなので頑張りたいと思います。



*ではでは。




5:03 2010/05/15 日春 琴