第九話「邂逅」


冷たく 仄暗い


雲隠の月夜


私は貴方の 捕(とり)になる


違うの 時限が懸かっているのよ



馬鹿にしないで




冷たく 仄暗い


雲隠の月夜


私は貴方の 敵になる



違うの 時限が懸かっているのよ



嘆かないで





どうせ貴方は 思ってるんでしょう


耐えて 喚く 私を見て


僅か風が墜ちたかと



違うの 時限が懸かっているのよ



馬鹿にしないで





心臓はシマッタわ


だから この血は貴方にあげましょう


貴方なんかに奪わせない


私のチュウシンは


貴方なんかに 見えないでしょう?



そうよ 時限が懸かっているのよ





お願い




笑って




馬鹿にしないで








【流星之軌跡:第九話「邂逅」】





補給間隔を調べるにはどうしたら良いか───?

は考えていた。


まず、何故藍染が四番隊の情報を知りたがっているのか。
そこさえ知れれば無駄な手間は省いて、彼の信頼を得られるだろう。
元々能力以外でも他人の心情を察する事の出来た彼女にとってみればその分析は簡単なものだった。



何故それが必要なのか───理由は簡単だ。
治癒専門部隊である四番隊が邪魔だから。
邪魔であるが故に、完全に消滅させなければならない。
そのためには邪魔者の内情と弱点を把握していなければならないからだ。



ならば───最近のものだけといわず、過去のものも調べてやろう。
そうすれば、藍染は自分を見直す……信頼してくれるだろう。



しかし、はそれに抵抗を覚えていたことも確かだった。
確かに、藍染に従うことは良い───そうしなければ、自分が確実に彼に『消される』から。
自分の大切な人から順に殺されてゆくとしたら、
間違えなく自分は理性も何もかもを失って、本能のまま藍染の『狗』と化すだろう。


そうなる前に、まだ理性が残っているうちに───彼に『あえて』従うのだ。
それが、今の段階で彼女が考えられる得策だった。
自分さえ、自分さえ心を鬼にして耐れば──いつか、光は見えるだろう。
それがいつになるかはわからないが、そんな希望を微かに抱いて彼女はその手段を選んだ。


そのことは、悔しいが、囚われた自分に課す罰としてなら受諾できた。


だが───どうしても、今迄仮に能力目的だけだったとしても、
自分を優しく育んでくれた護廷十三隊に対して諜報活動をする、すなわち刃向かう、
ということはどうしても耐えられなかった。


元々恩義に厚いだ。心を痛めるのも無理はない。




しかし、やらねば。




やらねば、死ぬのだ───。



は考えながらいつしか目の前にあった四番隊の門に目を止め、躯をぶるりと震わせる。
しかし、いつまでもためらってはいられない───
あくまでも表向きは藍染に心酔しきった愚か者としておいて、
心では優しい彼(か)の場所を抱いて───
は顔をいくらか冷たいものに引きしめると、その門を叩いた。



「何者か?名と部署を名乗れ」


門番が尋ねてきてすぐに、は言葉を返す。


「五番隊所属、です。卯ノ花隊長はいらっしゃいますか」


そう尋ね返すと、門番は少しの間をあけて門を開けた。
恐らく彼女のことを台帳で調べていたのだろう。



「卯ノ花隊長にご用か?」
「はい」
「どなたの命かな」
「それは───」


待っていました、とばかりに彼女は懐から今朝藍染にもらった文を差し出す。
門番が見ると、そこには『薬品紛失の為、急遽確認を御願い致したい』と書かれている。
勿論これはが藍染に頼んで書いてもらったものだ。


こう書いて、


「───なんでも、先月五番隊が要請して、こちらの隊から戴いた薬品類が
五番隊にまだ一部、着いていないらしいんです。それを調べて来て欲しいとの勅命で参りました。しかし───」
「勿論、台帳は貴重品である」
「そう。そうだと思っておりましたので……卯ノ花隊長直々の御許しが必要だと思いまして」


こう言えば、先月分の台帳記録だけでなく、過去の記録まで漁れる可能性が高まる───
が欲しいのは、先月の記録ではない。



台帳もしくはそれらを収録している謄本そのもの、だ。



それに、は以前四番隊に所属していたことがあった。
無論それは潜入捜査のためではあったが、少なからず彼女は卯ノ花と面識があったのだ───
それは、以前からが卯ノ花に医療関連のみは世話になっていたことがあるからだ。


が瀕死の傷を負った時、元柳斎は流石に四番隊の力を借りざるを得なくなった。
その時に、彼は『彼女は存在が特殊な故に、我々が秘密裏に監視している』と、
それに加えての能力とをだけ、卯ノ花に言って彼女と面会させた。
卯ノ花としてもの存在が気にならなくはなかったが、元柳斎に信頼を置く上に、あえてなにも問わずに今に至る。



それ以来、は卯ノ花と怪我をしては度々会う機会があったのだ。



だから、多少の甘えは『優しい』彼女なら許してくれるだろう。


はそう考えた。



「駄目でしょうか?」
「………………仕方ない。待っておれ……」
「は────」


その時だった。
突然四番隊内から彼女が──卯ノ花が、姿を表したのだった。


「あら、さん」
「卯ノ花隊長!」


卯ノ花はそのまま門番に「外しなさい」と手を振り、
彼が行ったのを静かに確認すると、に近付いた。




≪貴方が総隊長の命で今何をしているのかはわからないけれど───≫

「お元気ですか?」


しかしいくら面識があろうとあくまでも、外では護廷十三隊の一隊長と出来底ないの下っ端なのだ。
それを踏まえている卯ノ花は、心底心配そうにを心配する。


「大丈夫です。……お気遣い、痛み入ります」
「そう……大丈夫なら、良いのです」


卯ノ花の安心した笑顔を見ながら、は頭の片隅で
ぼんやりと『大丈夫』という言葉の重さを感じた。



一体、何が『大丈夫』なのだろう。



『大丈夫、まだ自分は生きている』


なのだろうか。


それとも───…。



「あぁ、そうだ」
「はっ、はいっ?」
「台帳ですよね?」
「あ……、さっきの話、聞いてらっしゃったんですか」
「ええ。可愛いらしい子の姿がちらりと見えましたからね」


照れて慌てて否定するに、くすくすと笑い声を立てる卯ノ花。
その姿は、あくまでも、平穏だった。





しかし、やらねば。





やらねば───『死ぬ』のだ。



死ぬのは、痛い。



死ぬのは、怖い。



やらねば────。



「あの、それで……台帳の方は?」
「ふふっ、少しからかい過ぎましたね。……それなら、速水君が持っているはずですよ」


聞いた事が無い名前だ。


速水?とは問う。


「確かに台帳は貴重品だけれど、あの膨大な資料を管理するのは少し私達としても
大変なものがありましてね。速水雄也君という隊員に任せてあるんですよ。
だから、彼をあたってみれば良いと思いますよ」


そうか、ではその男から台帳を手に入れれば───は続けて卯ノ花に場所を問う。
すると、彼女はを案内すると言って手を引いて来た。


「卯ノ花隊長…っ!?」


手を引かれながら驚いてそう問うと、卯ノ花は口許に人差し指を置いてくすりと微笑む。


≪少しくらい大丈夫ですよ。久しぶりに会えたんですもの。だから───≫


「……は、はいっ」


嬉しい───優しい、優しい彼女の慈愛。懐かしい思い出への郷愁。

しかし、それを感じる反面、は心を痛めた。

慈愛、追憶、郷愁、そして愛───全てが今のを、残酷かつ無情に切り刻んでゆく。


何よりも、優しさが、痛かった。






※※※※※


何の木の葉かはわからないが、夏を忘れたかのようにそれらが依然爛々と茂っている場所に、
速水雄也はいた。
彼は四番隊の席官、とまではいかない下っ端死神だったが、
それも良いかなと本人は呑気にかまえている。


元々温和な性格のほうだし、恐ろしい怪物なんかと戦うなんて真っ平御免。
自分には四番隊なりの、書類管理が一番似合っていると、妥協という訳でもなく納得、かつ満足していた。



無論そんな彼の部屋は書類だらけである。
片付けていない訳ではない。彼は回りからみても、
自分からみても、几帳面な性格の方だ。
ただ────毎日膨大な資料が寄越されるのだ。


特に最近。


旅禍が侵入したという情報が入った後からは特に、書類の量が莫大に増えた。


あまり仕事一筋な死神でもない彼は仕事が苦になるのは勿論嫌だったが、
それ以上に怪我人が増える事に心を病んでいた。


彼の仕事が増えることは即ち、怪我人や死亡者が出た、ということなのだから。


つい先ほども資料が寄越されたところだ。
それによると、何やらこの隊舎付近で虚が発生し、
それに隊員が襲われている事件が多発しているらしい。



これも旅禍のせいなのか……ぺらりと報告書をめくり、難しい顔をしていると、
突然扉を叩く音が彼の思考を遮った。
また何か悪い報告なのだろうか───重い腰を上げて、速水は扉を開けた。



「また報告書ですか──って、えぇえ!?うっ、う、う、卯ノ花隊長っ!」
「まぁ、人をまるで化物みたいな扱い……。ふふ、御機嫌よう、速水君」


扉を叩いたのは自分の敬愛する隊長、卯ノ花烈だった。
速水は間の抜けた顔と身形をささっと整えてきちんと姿勢を正す。
そして何事かと見回すと、彼女の隣りに立っている見掛けない少女に目を止めた。


「あれ……こちらのお嬢さんは…」
「えぇ、丁度貴方に紹介しようと連れて来たのですよ。……さんといいまして、五番隊所属です。
以前は四番隊にもいらっしゃったのですよ」
「あっ、え……?」


しまった。
自分は世に謳われる女性主義者という者まではいかないが、なかなかの女性優遇者であるはずだ。
その自分が、かつてとはいえ自分の隊に所属していた彼女の存在を知らないとは──。


迂闊だった。


即座に冷や汗を浮かべて「悪い」とに謝る。


「いえ、お気になされずに。私、所属していたといっても……
 その、一ヶ月ですぐに五番隊に行ってしまったので、面識が無くても仕方ないです」
「あ………っ」


くすりと苦笑する彼女の表情を見て、速水は思わず瞳を外した。



────何故だろう。
凍らせた筈の胸の傷が、熱くなるような気がしたのだ。




「どうかなさいましたか?」
「あ、いや、何でも……」


彼女の瞳を見るのが怖くて、俯き加減に見やってしまう。
そんな自分が意味もなく情けなかった。



さんに一目惚れしてしまったのでは?」
「たっ、隊長!」
「ふふっ……」


慌てて否定する速水を見て、卯ノ花は悪戯に笑った。
一方は───張り付いた苦笑の元に、ただ冷たく在った。
そうしていないと──あの男の白刃が、今にも容易に喉元を掻き斬りそうで怖いのだ。


暖かい場所に甘えてはいけない。
心を鬼にしなければ、いつまで経ってもあの男の狗になり下がり続けてしまうのだから───…。



「からかうのも…困ります。隊長───…」
「……すみませんね、速水君」


────?


ただのからかいに対して嫌に真面目な彼の様子から判断すると、何やら何かがありそうだ。
敵の情報を知っておくのは後々助けになる場合が多い。


は卯ノ花に問う。


「何か……?」
「あ、ええ……。……速水君……?」
「…………」
「……まぁ、速水君がさんを可愛いと思う事はあれど、それは無いでしょう」
「速水さん……」
「…………」


俯いた顔をよく見てみれば、速水は少年というには少しあてはまらない──青年以上の顔立ちをしていた。
その瞬間ふと自分を育ててきてくれた男の顔が頭を過ぎるが、
それは自分と同じ漆黒髪の色で塗りつぶされた。
彼は今、その端整な顔だちをいくらか暗いものにして依然黙りこくっている。


───悔しいが、あまり詮索するのは逆に怪しまれる。ここはあくまでも、
「気の利く少女」を装ってこの話題は変えた方が良いだろう。



大丈夫───急がば回れ。聞き出す機会はこれからいくらでもある。



「あの、それで卯ノ花隊長、台帳は……」
「えぇ、そうですね。速水君、薬品支出と配給記録をまとめた台帳、謄本はありますか?」


卯ノ花は周囲に散らばる書類の山々を見渡しながら苦笑気味に言った。
確かにこんな量を全てきちんと管理するのは至難の技だろう。




そして卯ノ花とが想像した通り──彼の返答は残念なものだった。









―――――――



謄本=台帳ボス(なんだそら)のことです。分かりにくくてすみません。



速水という名前は間違えなく私の趣味でござい(苦笑)速水っていう名前、格好イイナ〜って
思います。
しかも声優の速水さんも好きですw
いや、勿論一番は石川さんなのですが、二位は速水さんです。


というかそのお二人方の役を同時にかなり好きになってしまうということはかなりの偶然だなと思いますw
今まで共演される作品は見てきたのですが、同時に好きになるのは。。。なかったですねw


えーと、ということで(え)速水編開始です。
期間は短めに設定しておりますが、なんだか長くなりそうな予感・・・さて、いつ藍染編に入れることやら。
そんなんいってたら今年中に絶対浮竹編なんて終わりそうもありませんな、あはは(おい)


肉体的には前回以前のお話くらいには辛くならないとは思いますが、精神的にガッ、と辛くなります。
うー・・・ん、本当にこれ幸せになれるのかな(えええ)


個人的に今回の詩は気に入っております。
なんだか歌詞っぽくて。
それにあまり普段明らかにならないの本音とかが詩には表せるので、描くの好きなんですよね。

は浮竹にも少し、言葉遣いを直しているところがあるので。
中身は普通の女の子ですよ。
ただ、恩義と存在、そして愛情には飢えているのですが・・・。


まぁ、とにかく、これからですね。頑張ります。


では